第543話 解決策の効果
訓練場に私は来ていた。
アレからどうなったか知りたかったから。
騎士らに聞けばいいじゃないか。
そう言われるだろうけれど、関わった以上は結果をこの目で見たかった。
「………」
そして私は訓練場を見ながら半目になっていた。
「ソフィア様。その顔は王女としてどうかと」
「………ありがとうオーフェス。こっちを見ないで私の表情が分かるぐらい、私を理解してくれて。まるで以心伝心のようね」
そういう私もオーフェスを見ずに返すのだけれど。
視界の隅にオーフェスがこちらを見ていない様子は映っていた。
「何年ソフィア様を見ていると思っているのですか。それぐらいわかります」
「逆に気持ち悪いわね」
「ありがとうございます」
「いや褒めてないし。受け流すの止めてくれる?」
「では受け止めましょう」
………ん?
受け止める…?
想像してぞわっとした。
「やめて。ラファエルに何言われるか分からないわ」
「何を想像したんですか。物理的にやるわけないでしょう。ですが私の身を案じてくれてありがとうございます」
「いや逆でしょ。私の身を守るために盾になりなさいよ」
「そういう意味での盾はお断ります」
いや、断るなよ。
「騎士としてどうなの」
「私も馬に蹴られるのは嫌ですから」
「あっそ」
私は頬杖をついて、下に広がる訓練場の様子を眺める。
「………あれか。平民の男って、単純なのが多いの?」
「否定は出来ませんね」
「………現金ねぇ……」
ラファエルが言っていたご褒美が、あの後即実行されたらしい。
そして数日後どうなっているかというと…
「………60人全員訓練に来てるわね」
「はい」
四方にそれぞれの班が分かれているものの、訓練する騎士の中に見習い騎士がいて、人数を数えると全員揃っていた。
………やっぱ食べ物に釣られるんだ…
褒美がなければやる気が出ないとは…
給金だけで報酬とはならないのか?
生活のために来てたんじゃないのか…
「なんでも東だけが平民にとっては高級肉に有り付けるのはズルいと」
「いや、サボる方がなんでもズルいでしょ。一生懸命やっているのにサボっているのと同じ給金とか、やってられないし」
「それはラファエル様も考えているようですよ。サボっていた見習いには給金を出さないとまで公言しましたし」
「そうなの?」
私は視線を訓練場から外してオーフェスを見る。
「当たり前でしょう。騎士隊長達が自分たちの下の者の評価をつけるように、ラファエル様に言われていますし」
「そうなんだ」
「サボってた者の名前は全員ラファエル様の元へ行っています。訓練を終えるまで無給です。唯一食事に有り付けるのが訓練後の肉。食いつきますよねぇ」
「そりゃ食いつくね…」
ラファエルも強引すぎるかもと思うけれど、それだけ騎士という名は重い。
王族を守るのも騎士で、一般市民を守るのも騎士で、未熟だと守るべき者を死なせてしまう。
それがどういうことなのか、もっと考えて欲しいものね。
守られる側から、守る側に自分から志願したのだから。
生半可な気持ちじゃ、上達もしないだろう。
「でもこれで、ようやく始まるね」
「…ソフィア様、ご存じだったのですか?」
「へ? 何が?」
やっと騎士見習いの訓練が再開できるという意味だったのだけれど…
首を傾げると同時に、ドォンッ!! という大きい音が訓練場に響いた。
「ぅわぁ!?」
「ソフィア様!」
音にもそうだけれど、訓練場を囲う壁も揺れ、従って私達がいる斜めに観客席が設けられている場所まで揺れて、私の身体はバランスを崩した。
隣にいたオーフェスがその身で庇ってくれたから、なんともなかったのだけれど…
「………ったく。あいつやり過ぎだ…」
頭の上から声がし、私は見上げる。
すると私を抱き止めてくれたオーフェスの顔がすぐ傍にあった。
オーフェスは私を見ておらず、音がした場所だろう方向を睨んでいた。
「何が起きたの?」
「アルバートが入り口壊して訓練場に登場しました」
「………………………は?」
オーフェスの言葉が理解できずに、私は瞬き多くオーフェスの顔を眺める。
そして言葉を理解できてその方向を見れば、アルバートが大股で歩き、剣を掲げた。
「見習い共!! 今日は俺が相手だ!! がはははっ!!」
と、喚いている。
………何だあれ…
「………アルバートってあんな笑い方だったっけ?」
「………感想はそれだけですか…」
何故か呆れられたけれど、原因が分かって私はふつふつとアルバートに対しての怒りが込み上げる。
「………危ないじゃないのよ。アルバート、後で絞める」
「………程々に」
揺れもなくなってオーフェスに離してもらい、改めて椅子に座った。
さて……これからどうなるのだろうか…




