第541話 見習い現状
元気のいい声、と言っていいのか分からないけれど、訓練している騎士達のかけ声が揃って訓練場に響いている。
今の訓練は素振りらしい。
本物の剣を構えて、みんなの動きが揃っているのは見応えがある。
「………」
私は1人1人に視線を向ける。
確かに訓練場には揃いの――いや、一部見習い騎士の服が混ざっているわね。
「………でも少ないわね」
「はい」
顎に手を付けて呟くと、後ろからヒューバートの相づちが入る。
「見習いを雇ったのは全部で何人だったかしら」
「東西南北で各15人。計60人です」
そんなに雇ってたっけ…?
まぁ、平民は人数いるしね。
「………で、残っているのが1、2、3……15人程、かな。約4分の1……確かに問題ね」
焦って騎士がラファエルに相談したいと思うのは当然。
そしてラファエルが見当たらないから私へ取り急ぎ報告、ってことね。
「………残っているのはどの領の者か分かる?」
何気なく聞いただけだった。
「全員東ですね」
「………ぇ?」
「何か?」
即答されて思わずヒューバートを見上げると、ヒューバートは首を傾げる。
サラリと答えられるヒューバートにも驚きだけれど…
全員の顔を覚えているのだろうか?
「マジか!! 西南北の領民、根性なしか!!」
思わず叫んでしまい、ヒューバートに眉を潜められた。
あ、ごめん……
「………ソフィア様、身も蓋もない。………というか、王女がその言葉遣いはさすがにどうかと……」
ヒューバートにオーフェス乗り移った?
「ソフィア様」
「スイマセンデシタ」
逆後方から何か不穏な気配があり、即謝った。
何故私の考えてたことが分かるんだオーフェス…
そして何故私はヒューバートと共に来る騎士をオーフェスにしたんだ。
アルバートかジェラルドの方が良かった気がする。
………いや、でもオーフェスの方が冷静に解説してくれるだろう。
間違ってはいない、か…?
………話を戻そう…
「では、これは土地柄かしらね……粛清された貴族達もその方面の貴族だったし……ガルシア公爵が人を統べる力が優れすぎているのかは知らないけれど……他の公爵も頑張ってもらわないと…」
西のエイデン公爵は身内さえ教育が出来ていない程、自分のことに集中しすぎていた。
北のアシュトン公爵は穏やかだけれども、領民に優しすぎる故に、そして土地柄で地下で過ごすことの多い領民は我慢強さはあるけれど、根性がない。
南のアンドリュー公爵は会ったことはないけれど、ラファエルの言葉通りに取るならば、腰を上げるのが遅く、そんな人間が民に興味があるとは思えない…勝手にしろ感があるのだろう。
それでも処罰される事案はないから、腕はあるのかもしれない。
東のガルシア公爵は、ラファエルに協力する旨を伝えてから、元々民のために動ける人だったけれど、更に積極的に統一している気がする。
民は見るところはちゃんと見てるから…
「取りあえず西南北の騎士隊長達を集めて欲しいんだけど。東の隊長はそのまま見習いに訓練させてくれたらいい」
「畏まりました」
ヒューバートが走って行き、私はオーフェスに促されて訓練場の建物の中にある応接室に連れて行かれた。
暫く待っていたら、第二から第四の騎士隊長がヒューバートと共に入ってくる。
「ソフィア様」
「急に悪いわね。ヒューバートから話を聞いて、わたくしが赴かせてもらったわ。ラファエル様は今手が放せないですから」
「いえ、こちらこそ足を運ばせてしまい、申し訳ございません。本来なら我らからお伺いしなければならないところを…」
「現状を実際に見て把握することも重要ですわ。お気になさらず」
そう私が言えば、隊長たちがホッとする。
「それで、詳しく聞かせて頂いてよろしいかしら?」
それから私は訓練内容が詳しく記載された書類と、いつ頃から脱落者が出たのかを聞いた。
ここが訓練場と忘れ、頭を抱えてしまいそうになるくらいに、話の内容が重かった…
これ、私がラファエルに報告するのか…
そっとため息をついたのだった。




