第536話 嘘でしょ
私は手で顔を覆い、天井を仰いだ。
………嘘でしょ…
使用人に困った顔で報告をされ、私は信じられないまま――半信半疑で案内されるままついて行った。
そして報告通りで、私は繕うことも出来ずに素で反応してしまった。
「………いかが致しましょうか…」
「………」
私は暫く天を仰いだまま考える。
そうは言っても、特例は作りたくないし…
ラファエルに、と思ったけれど彼らはここの国籍じゃないし。
目の前には平民の格好をした、ローグとローム。
前に着ていた身なりがいい服は売ったのだろうか。
王宮の門の前で、雇ってくれるまで動かないと居座っていて、どうやっても退かなかったらしい。
迷惑極まりない…
かといって追い出したらまた来るだろうし。
………ぁぁ…
「わたくし直属の侍女と騎士以外に、ランドルフ王宮でサンチェス国の国籍の者は雇えません。お帰りを」
「では、ランドルフ国籍にしてください!!」
「無理よ!」
食い下がってくる2人に、私は思わず怒鳴った。
「どの面下げてまたわたくしの前に現れたのです!? ランドルフ国でサンチェス国の者が罪を犯したことで、わたくしの面子丸つぶれの上に、更に恥をかけと!? 自国の罪人を、他国に出せるわけないでしょう!!」
「「っ!!」」
「何処まで非常識なのですか貴方達は!!」
人の気も知らずに!!
こんなのが私と血が繋がっているなんて!!
「レオナルドよりバカなの!?」
「ソフィア様!!」
「落ち着いて下さい!!」
2人に詰め寄ろうとした私の前に立ち塞がるオーフェスとヒューバート。
それで少し冷静になる。
はぁっと息を隠すことなく吐き出して、私は目を閉じて気分を落ち着ける。
「………罰を受けても変われず、追い出されてもこうして悪びれもなく現れる。わたくしは恥ずかしくて今後ラファエル様に合わせる顔がありません」
「「………」」
「………さっさと自国に帰りなさい。サンチェス国以外で、貴方達を雇うところなど有りはしないでしょう」
「じゃあ、俺が雇おうか」
話は終わりとばかりに背を向けたところに、ニッコリと笑ったラファエルが立っていて……
………
………………
………………………ラファエル!?
なんでここ――って、今何言った!?
「ちょ、ラファエル様!?」
私は肩を優しく押され、ラファエルの背後に回された。
「丁度良かったよ。手が欲しかったんだ」
「ラファエル様!! 罪人の平民を雇おうとしないで下さいまし!!」
にこにこ笑っているラファエル。
慌てて腕を引くも、ラファエルの表情は変わらない。
「大丈夫だよ」
笑ったままラファエルは私に拳を差し出し、カチャッという音と共に親指と人差し指の間に小さなチップが2つ現れた。
「………ぁ……」
それが服従チップだと知り、私はラファエルの腕から手を離した。
「さて、君達2人にはこのチップを埋め込ませてもらって、私の指示通りに動いてもらう。このチップには命令が組み込まれており、反すると命を落とすよ」
「「え!?」」
「それでも雇われるかい? 言っておくけど、ここに戻ってきた時点で、君達はもう私とソフィアに従うか、頭と胴体が離れてサンチェス国へ戻るか、2つの選択肢に絞られたんだよ」
「なっ!?」
「どういうっ!?」
………そこで驚くことも、元貴族としてありえないことなんだよね…
「君達は王代理のソフィア王女から地位を剥奪された。それは貴族としての行動が出来ていなかったからだ。そして平民落ちになったのにも関わらず、自分たちの我を通して無理矢理王宮内へと足を踏み入れた。身分に相応しくない行動で、王族である私達の手を煩わせている。――平民なのにな」
2人がヒュッと息を飲んだ。
そして青ざめていく。
「………平民が王宮内へと入る事は許されていない。今いる平民達はわたくし達が集めたから王宮内にいるだけで、本来ならありえないこと」
「そう。そして王宮使用人募集は終わっている。それにねじ込めと平民であるお前達は言う。――ふざけるなよ」
ラファエルの表情は笑顔で変わらないのに、口から出る声は低く、凍えそうになる。
「恥に恥を重ね続けるお前達に、私達が恩情をかける必要が何処にある。選べ。服従か、死か」
すごく怒ってしまっているラファエルを、私は止めなかった。
震えながら膝をつく2人を見ても、私の感情は動かない。
「も、申し訳ありませんでした……」
「な、なんでもします……」
震えながらも言う2人に私はまた天を仰いだ。
………マジかぁ……
まだこの2人との接点が消えないのかと、落胆したのだった。




