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第533話 抜け道は




「………どうしてそれを?」


朝、ラファエルが起きて日課をし、無理矢理朝食の席にも着かせた。

その朝食の後のお茶の時間に私はラファエルに、サンチェス国に送っていた契約書の件を話した。


「ライトにお父様への手紙を持って行ってもらったの。そしてお父様のところにあった契約書を見せられたらしいの。私の案で作られた物は全て私の所有の物だと。何故そんなことを…」

「当然じゃないか。ソフィアの案を俺の物に――ランドルフ国の物にする道理がないでしょ。ソフィアの案はソフィアの物。ソフィアの許可なしでは使用できない」

「作ってるのはランドルフ国の技術者よ!?」

「他国だって国王が案を出して下の者が作っても、国王の許可なしでは販売できないだろ? 行商人が他国へ売りに行く物も、国王の許可証が必要だ。国内にある店もその店の者に所有権があり、勝手に販売など出来ないだろ」

「っ……!」


正論を言われて私は唇を噛む。

そう言われては、契約書を破棄させても意味はない。

あってもなくても、私の案は私の物で他人の物にならない。


「………じゃあ、なんで正式書類を……? あってもなくても良かったんでしょ…?」

「この国の旧国派を黙らせる――いや、抑え込むためだね」

「………ぇ……」

「前にソフィアが毒で倒れたでしょ?」

「う……」


い、嫌なことを思い出させないでよ!!


「その後の会議、荒れに荒れたのね。旧国派を抑制するには、ソフィアを守るためには、ソフィアの案で作られた物は全てソフィアの物で、ソフィアがもしこの国からいなくなったら一切の使用権利はない、とより説得力をもたせるため。念の為に作っていて良かったよ」

「………」


知らない間に私の案がダシに使われてる……?

思わずぽかんとラファエルを見てしまった。


「曖昧なことになってしまっていれば、旧国派はどんどん抜け道を使うから」


………抜け道…

ぁ…そうだ…


「その、抜け道なんだけど…」

「ん?」

「私の案、がダメなら、ラファエルの案に私が助言をするのは、私の案にはならないんじゃないかな…?」

「ん~……でもその場合、共同開発になってしまうから、やっぱりソフィアの許可もいることになるよ?」

「う……」


で、でもそんなのは、黙ってればバレないよね。


「黙ってれば、なんて考えないでね? 俺はちゃんとソフィアの案はソフィアの案だと公表するから」

「どうして!」


なんでそんなに融通が利かないの!?

私を見るラファエルの表情は変わらない。


「当たり前じゃないか。そんな卑怯なことをする俺を、サンチェス国王が認めるわけないでしょ。なにより自分が格好悪い。ソフィアの前ではいつも格好いい俺でいたいんだよ」

「………ラファエル……」

「って、格好悪いところばかり見られてるけどね」


あはは、と笑うラファエルは爽やかで。

そんなラファエルに私は何も言えなくなってしまう。


「………ラファエルはいつも格好いいよ」

「ほんと!? 昨日も情けなかったよ!?」


目を見開くラファエルに、私は首を横に振る。


「どんなラファエルでも、私には唯一の人だから。格好悪いと思うことはないよ」

「ソフィア……」


突然ラファエルが立ち上がったと思えば、机を回り込んで私を抱きしめてきた。


「あ~もぉ!! なんで俺のソフィアはこんなに可愛いんだろう!」

「………へ!?」


い、今の私に可愛い要素なんてあった!?

やっぱりラファエルが可笑しい!?

ゆっくり眠ったはずなんだけどな!?


「………あ!!」

「っ!? び、ビックリした……どうしたのソフィア…?」

「ご、ごめんなさい…あ、あのね、譲渡っていうのはどう!?」

「ヤだ」

「即答!?」


いいこと思いついた、と自画自賛しながらラファエルに言った言葉は、瞬時に真顔になったラファエルにバッサリ切られた。


「それもソフィアの案を奪ったことになるからヤだルイスがやれと言ってもヤだ格好悪いからヤだ」

「そ、そんなに否定しなくても…」


真顔で言われると怖いよ…

早口で、しかも一息で言わなくても…


「ソフィアに助けてもらってる俺やランドルフ国だけどさ、これでも矜持があるからね。サンチェス国に言われなくても、俺達が積極的に案を出して発展させる事が出来なければ、この先もソフィアの案に頼っていかなければならなくなる。今後、いい案が生まれないかもしれないけど、ソフィアがサンチェスである間だけでも、見守っててよ」

「ラファエル……」


私に手伝える事なんてないんだ…

シュンとしてしまい、ラファエルに頭を撫でられる。


「気持ちは凄く嬉しいからさ」

「………ホント…? 迷惑になってない?」

「なってないよ。むしろソフィアみたいにいい案が出るように考えるのは楽しいかな。ソフィア並の案が出たなら達成感が凄いだろうし」


………そんなに大したことないよ…

私の知識は、私以外の凄い人が考え出して、私はずっと使っている側だったのだから。

機械の内部がどうなっているかなんて全く知らないド素人。

だから純粋にラファエルの案には驚いた。

彼の頭は日本人の開発者と同列になれるのではないかと思う。

それに技術者も、日本の技術者に負けず劣らず。

私の言葉だけで作り出せるこの国の人間は、神なんじゃないかとすら思う。

そんなみんなが評価されないのがすっごく悔しい。


「そっか……頑張ってねラファエル」

「~~~~!! 頑張る! やる気出た!」

「出ちゃダメでしょ!! 無理しないでよ!?」

「は~い」


くっ……!!

相変わらず、間延びした返事なのに可愛いのは何故っ!!


「もうソフィアに怒られたくないからね」


ラファエルはお茶を飲み干し、私をもう1度抱きしめた後、出て行った。


「………はっ!! お父様の言葉伝え忘れた!!」


お父様がラファエルの案の1つを、優先的に完成させたら同盟の可能性を高めるだろうと言っていたことを。

穏やかに見送ってる場合じゃなかった!!

私は慌ててライトにラファエルへの伝言を頼んだのだった。


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