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第531話 裏事情 ―? side―




夜も更けた頃。

スッと気配が増えたと思えば、すぐに目の前に姿を現す黒ずくめの男。

男はゆっくりと頭を下げた。


「………何だ」

「夜分に失礼致しますサンチェス国王。我が主より文を預かってきました」


部屋で仕事をしていたアレン・サンチェスは、男が差し出してきた手紙を手に取り、中身を取り出した。


『拝啓 アレン・サンチェス国王 様

 お久しぶりですお父様。

 先日お父様が介入されたことで、ラファエル様が無理をするようになりました。

 今も無理が祟って寝込んでおります。

 今回お父様が確認したがっておりましたラファエル様の功績を、書面にてお送りさせて頂きますのでご確認を。

 お父様はわたくしを使ってラファエル様を試しすぎと存じます。

 メンセー国王を巻き込むことはないでしょう。

 わたくしが認めたラファエル様は仕事にも国のことにも忠実です。

 きちんと将来の王としての能力はあると判断しております。

 今後、ラファエル様をお試しになるのはお止め下さいませ。

 わたくしは心が痛うございます。

 ラファエル様が倒れられるのを間近で見ることは今後遠慮したく思います。

 またラファエル様を試すようなことをなさるのであれば、正々堂々としてくださいませ。

 わたくしをダシにされるのは、卑怯だと思いますわ。

 ラファエル様はお伝えになれば分かって下さる方です。

 わたくしで脅すお父様は格好悪く思いますわ。

 これ以上わたくしを使って介入なされるなら、わたくしにも考えがございますのでそのおつもりでいらして下さいませ。


 追伸

 お母様の体調は如何でしょうか。

 元気なお子が生まれるのを、ランドルフ国で祈っています。

 ソフィア・サンチェス』


「………くくっ」


アレン・サンチェスは娘からの手紙を読み、可笑しそうに笑った。

そしてラファエル・ランドルフが考えた案を見て、1つ頷いた。


「………いいだろう」

「………失礼ながら、何故このようなことを?」


男に聞かれ、アレン・サンチェスは男に視線を向けた。


「お前が探っていたのではなかったか?」

「私ではなく影’sが探っておりましたので」

「………何だ“影’s”とは…」

「王の命でレオポルド王太子からソフィア王女へと付いた影でございます」

「ぁぁ」


覚えているのか1つ頷いた。


「メンセー国を立て直す案を出したのはソフィアだ。それは分かるな?」

「はい」

「だが所詮ソフィアは王女。王女が出した案でメンセー国がランドルフ国へ同盟を持ちかけるのは可笑しい」

「………失礼ですが、意味を把握しかねます」

「メンセー国がランドルフ国に助けてもらったわけではない、ということだ」


アレン・サンチェスの言葉に首を傾げる男。


「ランドルフ国が改国案を正式にメンセー国に差し出したわけではない。ソフィアはまだサンチェス国の人間であり、今回の件は謂わば“サンチェス国がメンセー国に”助言した形になるんだ。分かるか?」

「………ぁ……」


今回の件の一連の流れは、次の通りだ。


メンセー国王がサンチェス国王へ助けを求めた。


サンチェス国王は自身の娘に案はないかと帰国を命じた。


ソフィア・サンチェスはサンチェス国王女の肩書きのまま、案を出した。


そしてソフィア・サンチェスの手引きによってランドルフ国の染料を入手することになった。


元を正せばそれもソフィア・サンチェスの案で作られた物。

その染料の所有権――製造から販売までもソフィア・サンチェスの許可がいるもの、である。

アレン・サンチェスの手元にも、ソフィア・サンチェスの案で生み出された物は全て、ソフィア・サンチェスの許可の元、製造販売すると書かれたランドルフ国が正式に作った書類がある。


「ソフィアがラファエル・ランドルフと婚姻していればまた話は別になるんだ」


ピラッとソフィアの案所有権の書類を男に見せながら、アレン・サンチェスは語る。


「これでソフィアが、ソフィア・サンチェス・ランドルフになっていれば、ランドルフ国もメンセー国を助ける事に関与していたことになる。が、残念ながらソフィアはまだサンチェス国の王女だけの肩書きなのだ。ランドルフ国王太子妃の肩書きは持っていない。従って、ランドルフ国がメンセー国を救う手を差し出したことにはならないのだ」

「………そこまで考えが至りませんでした。申し訳ございません」


男が頭を下げるのを見、アレン・サンチェスは真っ白な紙を取り出してペンを手にした。


「私があの男に、国のために出せる案が出来るまでと、メンセー国王の文を止めたのは事実。そしてソフィアをダシに使ったのも事実。そこは認めよう。だが、メンセー国が同盟をランドルフ国と結ぶには、互いに助け合えなければならない。メンセー国もランドルフ国に何か提供できるような物を出していない。互いに何もしていない状態で、同盟などする道理がない」

「………仰るとおりです」

「だからこそ、“ランドルフ国の人間が”編み出した案で物を作り、提供できなければならないのだ。それが出来たなら、ランドルフ国に有利な同盟が結べるだろう。メンセー国は経済が戻るまで周りの国に助けを求めなければならないのだから、下手に出るしかない。ランドルフ国みたいな小国が、大国相手に対して有利な同盟を結ぶ滅多にない好機なのは認める。が、ソフィアの案で作り出された物はソフィアを失ったときに使用できなくなる」


ハッと男はアレン・サンチェスを凝視した。


「正真正銘、案から仕上がりまでランドルフ国の物でなければならないんだ。メンセー国が経済を完全に立て直せば、ランドルフ国など捨て置かれるだろう。同盟は夢のまた夢になる。だから立て直すまでが勝負なのだ」


アレン・サンチェスは、ソフィア・サンチェスが書いて送ってきたラファエル・ランドルフの案の中にあった物の1つに丸を付けた。


「………これだけでも仕上がれば、優位に事が運ぶだろう」


そう言いながら、アレン・サンチェスは娘に対しての手紙を書き終え、共に封筒に入れて封蝋をした。

そして男に差し出す。


「ヒーラー・メンセーが褒めていた指紋認証も、国境設備も、ソフィアの案だ。ソフィアの後ろ楯にという言葉は当然だろうが、そこにランドルフ国が所有権を持っていない以上、ヒーラー・メンセーの評価の中に、ランドルフ国が入ることはないんだ」

「………製造できても、ソフィア様の物…」

「そうだ。だからこそ、ラファエル・ランドルフが最初から最後まで所有権を持てる、ラファエル・ランドルフ案が必要だったのだ。そう直接言えばソフィアも怒らなかったのだろうし、ラファエル・ランドルフが倒れることもなかったのだろうが、脅すようなことをしたからこそ、全力で取りかかれただろう?」

「………」


男がまたゆっくりと頭を下げた。

そしてスッと音もなく消えた。

アレン・サンチェスは椅子に深く腰掛け背中を預け、くるりと椅子ごと回り窓の外を見た。


「………これでソフィアの危険も分散できよう。あれだけの案があれば、数年は発展の可能性がある。実現はランドルフ国の技術者次第だろうがな」


ふと手を上げ、自身の影を呼んだ。

音もなくアレン・サンチェスの背後に影が降り立つ。


「お呼びですか」

「もういいぞ。メンセー国の影を気付け薬で起こしてやれ」


アレン・サンチェスの影は目を少し開いた。


「………お気づきでしたか」

「アレの影がそろそろ来ると予想し、昏倒させたのは英断だったな。良くやった」


主に褒められ、影はゆっくりと頭を下げた。


「先程の話をメンセー国に筒抜けになっては主が困ると判断しましたので」

「ああ」

「………しかし、長く付き合いがあるメンセー国王よりランドルフ国を優先させてよろしいので?」

「ソフィアが嫁ぐ国だぞ。何よりも優先するだろう」

「………恐れながら、主はラファエル・ランドルフをお認めになられておられたのですか?」

「私はソフィアの見る目を疑っておらぬ。この国の男には見向きもしなかったソフィアが、無理矢理婚約させられたはずのソフィアが、心から笑って、あの小僧に想いを寄せている。ならば例え憎まれようとも、あの小僧を最短で王に相応しくさせるだけだ。ソフィアを不幸にするわけにはいかん」


アレン・サンチェスの言葉に影はもう1度頭を下げて消えた。


「………ぁぁ、アリーヤの体調の件を書き忘れたな…」


事務的な手紙文だけになったことを、今更気付いたアレン・サンチェスは苦笑した。

これではまたソフィアに勘違いされるな…と思いながらも訂正しようとしないのは、どう思われようともソフィアが笑っていられる場所が守れればそれでいいと思っているから。

アレン・サンチェスはまた机に向かった。

今度長い休暇が取れ次第、妻を連れてランドルフ国へ行こうと思いながら。


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