第528話 やるなら全て完璧に
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
今回少し長めです。
閉じていた目をゆっくりと開ける。
集中しすぎて、頭がクラクラする…
でも、そうも言ってられない…
「………はぁ……」
1つため息をつく。
………もどかしい…
「姫様」
声を掛けられてハッとする。
視線を向けると、アマリリスが近くにいた。
「………何?」
「お食事を召し上がって下さい」
言われて気付く。
目の前に冷えてしまった食事があることに。
持ってきてくれただろう時には、おそらく湯気が立っていただろう食事。
………私は持ってきてくれたことにも、置かれるときも気がつかなかったようだ。
「………ぁ、ごめん…」
私はゆっくりと箸を手に取った。
こういう時に温め直せとは言わないことを知っているアマリリスは、何も言わずに壁際に去って行く。
温め直す、ということがこの世界では出来ない。
なにしろレンジがないから。
温め直す、ではなく、作り直さないといけないために、私は冷えたら冷えたまま食する。
なにしろ食の国で生まれ育った王女ですから。
捨てるなんて出来ません。
食事をしながら考える。
ラファエルの手伝いがしたい…、と。
バキッ
「………ぁ……」
また考え込んでしまい、ついつい手に力が入ってしまって箸を折ってしまった…
せっかくアマリリスが作ってくれた物なのに…
またため息をついてしまう。
「姫様」
アマリリスが何も言わずに新しい箸を差し出してくる。
「………ぇ……いいよ。まだ使える……」
「どうぞ」
「………はい……」
問答無用で取り替えられ、私は新しい箸で食事を続ける。
①民の声から思いついた、ゴミ収集車。
②同じく民からの声で思いついた、冷暖の井戸水道(って言ったらいいのかしら?)
③私の精霊灯…? から思いついた街灯。
④自動輸送車――これは貨物用と人用で、路面電車のような物だと思ったらいい。
地面に凹みを作り、自動で動く車輪を付けて、一定の時間で動く完全機械管理で、人が運転することはない。
人用は貴族用と平民用で2種。
取りあえずはサンチェス国との国境から温泉街までの直通のみ。
人の往来がない場所に線路を作ることで事故防止。
⑤今回の紙での意見箱を機械管理でパネル入力式にするための、現代で言うパソコンやタブレットみたいな通信手段開発。
………達筆すぎて読めなかった意見が多数あったらしい…
⑥王宮騎士と巡回騎士の連携をスムーズにするために、指紋認証の通信機能を使っての連絡手段開発。
⑦時計を普及させるために、王宮の屋上(?)に大きな時計をつける。(王宮兼時計塔…)
学園の屋上にも設置予定。
⑧犯罪抑止力の為の防犯用カメラ。
文字通り防犯カメラで声も拾える高性能な物の開発。
⑨犯罪を目撃した時の緊急警戒装置の開発。
………手を出しすぎだ!!
絶対にやりすぎだから!!
ラファエル壊れる!!
認められるまでの時間が少ないからってやりすぎ!!
同時進行でやるなら、滅茶苦茶しないといけないから!!
詰め込みすぎだ!!
いくら技術者がいるからと言っても、そこにラファエルが加わるなら、絶対にやり過ぎるから!
作ってる最中にまた新しいこと思いついたとか言って、次々と手を出しそうだから!!
民の声も大事だけど、民の安全も大事だけど、全部一気にやろうとしないで!!
無茶して不完全な物が出来上がったら、元も子もないから!!
私の案以上に無茶だから!!
私は食事を終え、手を合わせてから立ち上がる。
「………ラファエルの所に行く」
そう言えばザッと私の騎士達が扉の前に立ちはだかる。
「ラファエル様とルイス様から、ラファエル様が仕事中はソフィア様を近づけないようにと言われております」
「私の騎士達がラファエルの騎士になってるよ!!」
冗談じゃないわよ!!
わ・た・し・の・騎士達だよ!!
私の言うこと聞きなさいよ!
「ラファエルが過労死する前に止めにいくの!! 邪魔! どいて!」
「過労死する前に周りが止めます。ソフィア様がわざわざ行くことはありません」
「信用できないわよ!!」
………ぁ……
部屋の温度が下がった気がした。
扉の向こうから、何やら不穏な空気が…
『ラファエル様のその信頼は皆無でしょうが、私達まで無能呼ばわりは聞き捨てなりませんよソフィア様』
扉の向こうから低い声が聞こえてきた。
………お、怒らせちゃった…?
ゆっくりと音も立てずに扉が開いていき、満面の笑みのルイスが見えた。
………絶対零度の笑顔は勘弁して欲しい…
「………スイマセンデシタ…」
直接は見ないように視線を反らしながら謝った。
だって怖いもの…
「………その様子では、ラファエル様の案を知っているようですね」
「………まぁ…」
「取りあえず纏めた物をお持ちしました」
「………ぁ、うん」
ルイスから差し出された書類を受け取る。
「ソフィア様なら色々思うところもありましょうが、まずはメンセー国王――いえ、サンチェス国王が認めるまで口出し無用でお願い致します」
「………はい…」
ラファエルの案を詳しく記した書類を読みながら頷く。
………それはいいんだけどね…
やってみなくちゃ分からないし、必ずしも私が知っている知識がこの国で通じるか分からないから。
だから、いいんだよ。
ラファエル案は。
大体これ、私の案とほぼ同レベルだから。
私の案いる? って思うぐらいにニアピンだから。
ラファエルが純粋に凄いから。
……って、そうじゃなくて、それよりも私が気になっているのは、案の数もだけれど――
「………ちゃんとラファエルは休憩しながらやってるの…?」
私が精霊の目で覗いている時間では、ラファエルはいつも働いている。
私の元に来ない…
こういう時……私に近づくなと言うなら、ラファエルから来てくれないと、会えないし休んでいるか分からない…
「………やはり来ておりませんか…」
「………」
ギュッと書類を握りしめる。
ルイスのその他人事のような言葉で、私の中の何かが切れた音がした。
さっき謝ったことは間違っていた。
「………こんなんで……こんなんでルイス達をどうやって信用しろって言うの…? ラファエルが集中しすぎるのは仕方ないとしても、私がいなくて誰が止めてるの…? 誰が無理矢理でも私の元に連れてきてるの? 1度も…アレから1度もラファエルが休憩時間に私の所に来てないのに!! 私は何時まで我慢して、貴方達がラファエルをここに連れてくるのを待ってればいいの!? ちゃんと椅子に座らせて、休憩させていると胸を張って言える!? ちゃんと管理してくれてるの!?」
感情が高まり、私は涙目でルイスを睨みつけた。
「………申し訳ございません。確かに、その件に関しての我々の信頼はありませんね。先程は失礼致しました」
ルイスが頭を下げるも、私の気持ちが晴れるわけがない。
明確な答えが返ってこないということは、ルイスはちゃんとラファエルが休憩している場面に、居合わせていないということ。
私は1度深呼吸して感情を抑える。
「………休憩時間にラファエル様を寄越してくださいまし。毎日、同時刻に、必ず、ですわよ。それが出来なければ、わたくしは本当に介入しますわ。――ルイス・ランドルフ、いいわね? 宰相だというのなら、臣下の役割、忘れないで。主君を働かせ続けるのが、体調管理を怠るのが宰相だと思っているのなら、その任から外れなさい。間違っていることも指摘するのが臣下の務めでしょう。休憩を取らないなら強制的に連れてきなさい。わたくしに介入するなというのなら、全部完璧にやりなさいよ。ラファエル様が倒れたら――わたくし貴方を許さなくてよ」
「っ……はい」
「………それと、ラファエル様に伝えてちょうだい。前にわたくしが伝えたことをお忘れなのでしたら、わたくしは本当に実行しますわよ、と」
ルイスがまた頭を下げて出て行った。
「………ソフィア様、こえぇ…」
「ラファエル様も集中されると周りが見えなくなるから…」
「まぁ、ソフィア様も周りが見えなくなることもありますけれどもね」
あ、雑音が…
「………わたくしが集中しすぎたり無茶すると、ラファエル様も貴方達も指摘するでしょう。逆が許されない、なんてことありませんよね?」
笑って言うと皆直立不動になった。
………なんでよ…
ちゃんと笑ったのに…
その数分後、慌ただしい足音が聞こえてきて、バタンと勢いよく扉が開いた。
ゼーゼー言ってるラファエルを見て、私はニッコリ笑った。
「お疲れ様ですラファエル様。今度時間があるときに、時間を知らせてくれる――休憩時間を知らせてくれる時計の開発をしましょうか」
「………ハイ……」
ラファエルまで固まってしまった。
だからなんでよ。
私はちゃんと笑ってるでしょうに。
納得がいかないまま、私はアマリリスにお茶を頼んだのだった。




