第527話 俺の我が儘 ―R side―
センサー付きのゴミ収集機械は難しかった。
ゴミと判断するのが機械では難しいためだ。
自動でやるのは諦め、人が判断するようにすることとなった。
機械が吸い込んだ物を、乗っている人が分別し、ゴミじゃない物は記憶させ、持ち主に返す。
それで落ち着きそうだ。
後は学園の試験回収機械を元に、ゴミを入れる荷台などを付ければいいので、結構簡単に作れそうだった。
次に井戸の水を冷と暖にする機械。
これも難しかった。
元々井戸の水は凍るぐらいに冷たく、温めるのは薪で沸かせば良かった。
けれども、元々茹だっている水を冷やすには、冷ます手段を用いらなければならない。
が、その手段が今のランドルフ国では北方へ1度湯を流し、もう1度こちらへ流すようにしなければならないが、冷やした物をこちらへ戻すときに暖まってしまうだろうという悪循環。
「………う~ん……機械の中でどうにか冷やせないか……」
「温暖機械の逆は出来ませんかね」
「冷却機械へ、か」
元々雪が万年積もっていたこの国の王宮には、温暖機械がある。
だが、本当に数カ所設置されているだけで、王宮内全てを温める機能はない。
街中に置くには大きく、そしてなにより金がかなりかかってしまうという、使い勝手が悪い物だ。
「単純に逆噴射すれば冷えるわけじゃないからな…技術者に研究させるしかないか…」
「精霊にも何か手伝ってもらえないか頼めませんか?」
ルイスもすっかり精霊に頼るようになってきたなぁ…
「俺の精霊には街の声を拾ってきてもらっているからな…ユーグに手伝ってもらうか…」
「………ぁぁ、ソフィア様でなければ全ての精霊に協力して頂くことは出来ませんからね…」
「そうだよ。こういう時につくづくソフィアに助けてもらっていると実感するよ…」
苦笑しながら俺はペンを置いた。
ランドルフ国の王族は俺なのに、未来の王は俺なのに、俺自身が究極精霊の契約が取れていない事が、純粋に悔しい。
でも、それで俺がソフィアを恨むことはない。
精霊との契約者は、精霊自身が選ぶことだから。
――遠い未来に、機械の究極精霊が生まれたら、俺と契約してくれることを祈ろうかな。
自分の考えに心の中で笑う。
遠い夢のまた夢だな。
「俺も研究に参加する。任せっきりは良くないからな」
「また貴方は…普通は下の者に任せることですよ」
「そうだけど、俺の我が儘でもあるから、任せっきりなのも悪くて」
掛けてあった白衣を取り、袖を通しながら扉へと向かう。
「我が儘、ですか?」
「そうだよ」
ドアノブに手を掛け、ルイスを見るために振り返った。
「だって今回の案は、民の為ではあるけれど、大半はソフィアと離されたくないっていう俺の我が儘でやっていることがなんだから」
サンチェス国王に認められ、ソフィアの隣に立つ王となるために。
な?
立派な我が儘だろう?
普通ならここで「民が為に」との言葉が出てこなければ可笑しい。
今日も不安そうな顔で送り出され、仕事よりソフィアを優先したかった。
でも出来ない。
きっと俺のいる場所全てに、サンチェス国王の手の者が潜んでいるだろうから。
「………結果的に国のためになるけれども、動機が不純、だと」
「そう。なのに俺が機械開発にノータッチでどうすんの」
「………ソフィア様は案を出すだけですけどね」
「ソフィアはいいんだよ。女の子なんだから、あんな男だらけの技術室に送り込めるわけないし、ソフィアの綺麗な手に傷が付いたらどうするの」
そうなったらそうなったで、文字通り傷物にした既成事実として俺が引き取れるけれど。
そんな卑怯なやり方出来るはずもない。
「………休憩時間にはソフィア様の元へ行って下さいね」
「………あれ。珍しいじゃん。ルイスがそんな事言うなんて」
こうなる前は時間があるからソフィアの元に行くことが増えていて、仕事しろって尻叩くくせに。
「貴方は極端ですからね。仕事に集中しているときはソフィア様を蔑ろに。ソフィア様を優先しているときは仕事を蔑ろにしますから」
「失礼だなルイス。俺はいつもソフィア優先だ!」
「それは偉そうに言うことではないです」
ズバッとルイスに切られ、笑いながら執務室を出た。
………さてっと…
新たに作成した図面を確認しながら俺は歩いた。
さっさと片付けてソフィアとイチャイチャしたいなぁ。
祭りの準備もあるし、同時進行は厳しい。
でもやらなきゃ。
メンセー国の経済回復は、おそらくそう遠くない。
だって、ソフィアのアイデアだし。
ソフィアのアイデアで効果が出るのが遅いなんて、今までなかったのだから。
俺の力で何処までやれるだろうか。
………なんて弱音なんて吐いている場合じゃない。
やらなきゃいけないのなら、死に物狂いでやらなければ。
今日も新たに問題が上がっていたし、これらも同時にやって――
ああ、そういえばソフィアが前に出していたアイデアもやらなきゃ。
王宮内もちゃんと同時進行で発展させて――
そんなことを考えながら俺は早足で技術室に向かった。
そんな俺を、ソフィアが精霊を使って見ている事なんて気付かずに――
今年も残すところあと1日となりました。
お付き合いくださっている読者様には感謝しております。
皆様に来年も幸福がございますよう。
良いお年をお迎えください。




