第526話 予想外で ―R side―
意見箱を各所に置き、民の声を拾うというところまでは良かった。
毎日巡回騎士が回収し、王宮へと持ってくる手はずになっている。
だが民からの意見が問題だった。
「これも……ぁぁ、これもですね…」
ルイスが纏められて来た紙を読み、俺はルイスから渡された紙の問題への解決策を出す、というのが分担だったわけだが…
「………」
俺はルイスの机の上に山積みになった紙を1枚取って読む。
「全て、ラファエル様とソフィア様への感謝のお手紙、ですね」
ガクッと肩を落とす。
そういうのを聞きたいわけじゃなかった。
確かに意見箱に、何でもいいから王宮へ上げたい声を、と書いたけれども…
ランドルフ国を発展させたいが故の、問題があったら解決したいという主旨だったのに…
「あ、ラファエル様、ありましたよ!」
珍しくルイスが表情を明るくし、笑って俺に手渡してくる。
「そうか!」
俺も嬉しくなって意気揚々と受け取る。
こんな時でなければ、俺とソフィアへの感謝の手紙の方が嬉しく思えただろうに。
「………」
俺は意見書を読んでいき、1つ頷いた。
「これは確かに気付いてなかった。早速考えるか」
意見書を持ったまま、俺は机へと向かう。
書かれていた内容は、
『温泉街が出来、売り上げが回復するのはありがたい。けれど、人が多くなった分治安が悪くなるのは仕方がない。それは巡回騎士が何とかしてくれているが、それに比例してゴミが捨てられる事が多くなった。見えるゴミはまだいいが、死角に入ってしまっていれば、悪臭を放つまで気がつかない。店先にゴミの箱を置くのは外観的にはばかれる。何かいい方法はないか』
という事だった。
成る程、盲点だった。
早速、ゴミを収集する機械を作るように技術者に伝えてみよう。
ゴミを回収するのはいいけれど、ゴミとそうでないものの区別が付くようにすること。
あまりに大きければ回収できないだろうけれど。
死角にあっても回収できるようにセンサーを付けて…
人の往来を邪魔しないようにするためには……前後左右人1人分、の大きさでってところか。
「ラファエル様、他にもございました」
「ありがとう。そこに置いておいて」
「はい」
俺はゴミ収集用の機械に付けたい機能を書き出す。
その後、次の問題に移る。
『過ごしやすくなって本当に感謝している。けれど、地の温度が高くなった分、井戸の水の温度が高くなり、洗濯の時はいいけれど、料理用の水にするには温く、冷やせたら有り難い』
「………これも盲点だったな……」
けれど、這わせている源泉はもう変えられない。
なら冷やすところがあればいい、ということか。
家庭用に作るには値が張るが、共有出来る所に1台湯を冷やす機械を作る、もしくは井戸の隣に冷やす機械――いやむしろ井戸の上に設置して、スイッチ1つで温冷切り替えられ、両方出るように出来れば……
………これ、ソフィアに相談できてたらもっといいアイデア浮かぶ気がするけれど……
そんな贅沢言ってられないな……
よし、これはこれでいこう。
後は――
「ラファエル様、こちらは――」
「………これは……」
俺とルイスは夜が更けるまで、民の意見書を元に、機械の提案をしていき――
意識朦朧としてきたところに、精霊伝いでソフィアが苦言を言ってきた。
『どうせラファエル様の事ですから、張り切って根を詰めるのでしょうけれど、寝不足の頭でいいアイデアが出ると思わないでくださいましね。わたくしはお手伝いできませんですけれど…それがお父様の要求なのでしょうし。でもそれでラファエル様が倒れられたのでしたら、わたくし自身も、お父様も許せなくなってしまいます。ので、もしラファエル様が倒れられたら、国に返されるとしても、問答無用でお手伝い致しますのでそのおつもりでいらして下さいまし。わたくしは案より、お父様の命令より、ラファエル様が1番優先ですから』
と、もはや脅しでしかない伝言を受け取った俺は、即ペンを放り出し、慌てて部屋へと戻ったのだった。
ソフィアが敬語を使うということは、滅茶苦茶怒っているし、俺に付き合って今の今まで寝室で起きて待っているということ。
俺の行動パターンを知っているソフィアは、何も言わなくても俺がアイデア出しで仕事を長引かせていることも、止められなければ止めないことも分かっていたんだな…
急いで着替えて寝室へと行けば、目を擦りながらも笑ってソフィアが迎え入れてくれる。
ただいまと言って、ゆっくりと抱きしめれば、限界だったソフィアの頭が俺の肩に。
すぅすぅと寝息を立てるソフィアを可愛いと思いながら、俺はソフィアと共に横になったのだった。




