第525話 葛藤 ―R side―
執務室に戻って、椅子に座る。
肘をついて手に顎を乗せる。
「………」
ジッと仕事をしているルイスを見つめる。
………
………………
………………………
やばい、何も思いつかない。
ガクッと頭を下げた。
「ソフィア様に格好いいこと言って、そのざまですか」
ルイス、何故こっちを見ていないのに俺の様子が分かるんだ。
そして何故、あの場にいなかったのに俺がソフィアに格好つけたと分かるんだ。
「そんなにポンポンソフィアみたいに案が出てくるわけないだろう」
最後は開き直った。
だって、俺が最初からソフィアみたいに出来るなら、とっくに国の問題は解決し、ソフィアにこんな苦労が多い国に来て貰う必要もなかった。
準備万端整えてソフィアを迎え入れることが出来たんだ。
「まぁ、その場合はソフィア様は別の所に嫁いでいたでしょうね」
「嫌なこと言うの止めてくれる!?」
最近ルイスが俺の心を読んでいる気がする!!
ソフィアが俺以外の男の隣に立って、俺以外に笑顔を向ける……?
あ、想像しただけで殺気が……
手を振ってその妄想を打ち消す。
「………取りあえず国中の道に、多少なりとも照らす光を開発するのは、ランドルフ国案でいいのか……?」
「そうですね……まぁ、ソフィア様からの案を元にして、ですから多少はよろしいのではないかと。ソフィア様は精霊でするおつもりですから、応用として」
「そうか。それは優先的に行ってくれ」
「はい」
ルイスがメモに書いていく。
さて……サンチェス国王は厳しいが、さすがにソフィア並のアイデアを求めているわけではないだろう。
だってソフィアのように案が出せないならと言うなら、自分たちもソフィア以上のアイデアを出して、国を発展させていないと偉そうに言えないのだから。
ランドルフ国の発展を俺自身の案で行えればいいわけだ。
だからソフィア並のアイデアでなくていい。
俺だけで発案し、販売でき、利益を出して維持できたらいいということだから……
ランドルフ国ならではのアイデア…
だったらやっぱり機械技術だよな…
「………他国に販売する事を考えずに、まずはランドルフ国で使える物にするか…」
「それだと利益を求めることは出来ないのでは?」
「でもさ、他国に卸すことばかり考えても、すぐに繋がるわけじゃない」
今までのソフィアの案だって、ランドルフ国で作れれば、という前提で、そしてその案はランドルフ国のためだった。
そして結果的に他国に求められて販売し、利益が出せてきた。
そう考えると、俺はまず――
「………ぁぁ、そういう事かもな…」
「ラファエル様?」
「俺は今までソフィアの言うまま作るように指示して、ソフィアが案を出してくれるから他国への交渉をする事に注視できたんだよな。肝心の俺が国を蔑ろにしてたのかもしれない」
「………そう、言われればそうかもしれませんね…私も反省致します」
「だな」
俺はピッと真っ白な紙を取り出した。
「ルイス、至急上に紙が差し込めるような穴が開いた箱を50程作るように指示してきてくれ。後方が開け、鍵で開けられないようにして」
「箱、ですか?」
「各所に意見箱を設置する。民達の声を聞きたい。何でもいい。これに困っている、こういうのがあればいいなど」
「成る程」
「本当に国が過ごしやすい所になるには、住んでいる者の声がどうしても必要だ。ここにいるだけでは民が望んでいる事が分からないから」
ルイスが頭を下げて出て行く。
「精霊達も協力してくれるか? 通りすがりで聞こえてきた民の世間話でも何でもいいから、声を拾ってきて欲しい」
俺の契約している精霊達にも協力を願う。
『長達にも協力を仰ぎますか? 全ての精霊を……』
「いや、それだとソフィアの力を借りたことと同義。すまないが、今回はそれではダメなんだ」
『御意』
精霊達の気配が消えていく。
俺は紙に書き出していた手を止め、少し息を吐いた。
ソフィアを手放す事などありはしない。
俺が唯一手を伸ばした者。
欲しいと焦がれた者。
手に入れた以上、誰にも奪わせない。
目の前にいなくても、脳裏にソフィアの顔が映し出せる。
最後に見たのは困ったような顔。
それを満面の笑みに変えるんだ。
ソフィアの顔は――どんな表情でも可愛いけれど、やっぱり1番は“俺の隣で”笑っている顔。
その為にはどんなことでもやってみせる。
止まったままだった手をまた動かし、俺は必死で考えたのだった。




