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第523話 密談 ―? side―




静かに置かれたカップ。

そしてソファーに座っている人物の前に、お茶を置いた人物が座る。


「………で、あれで良かったのかな?」

「………ぁぁ」


2人の男達はそれぞれカップを持ち上げ、お茶を口にする。


「でも何故ソフィア嬢にだけ、手紙を送るように指示を? 私はラファエル殿に礼と同盟話を持ちかけたかったのだけれど」


お茶を用意した男、ヒーラー・メンセーが口を開き、目の前にいる男を見た。


「今のランドルフ国の案は全てソフィアが考えたものだ」


彫りが深い顔の男は、アレン・サンチェス。

薄明かりの中で話す彼の顔は、暗がりで更に怖くなっている。

サンチェス国王とメンセー国王が暗がりの中で話している光景は、第三者から見れば凄く怖いものだろう。


「そうだね。けれど、私はソフィア嬢に案が上手くいけばラファエル殿の後ろ楯になろうと約束した。いい結果が出ている以上、それは守られなければならない」

「契約書を作った以上、口約束よりそちらが優先される。ソフィアの後ろ楯になると。ならばソフィアが優先される」

「まぁ、そうだけれども。国の同盟話だ。ランドルフ国の頂点に立つのはラファエル殿だ。同盟話は当然ラファエル殿に持ちかけることだよ。ソフィア嬢はあくまで王女。ラファエル殿と婚姻さえしておらず、将来ランドルフ国を動かす存在でもない。そんな一個人の王女にメンセー国がついても意味はない」


メンセー国王がサンチェス国王に言うも、サンチェス国王の表情は動かない。


「こちらの国に必要なのは、ソフィア嬢ではなく、ランドルフ国の技術開発力。あれだけのものがソフィア嬢の何気ない一言で短期間で実現可能。是非引き込んでおきたい技術だ。我が国にソフィア嬢だけ引き込んでも――引き込めたとしても、実現など夢のまた夢だよ」


手の平を上に向け、無理だと首を振る。

囲ってしまいたいのはソフィア・サンチェスとランドルフ国の技術。

強いてはそれを指示できるラファエル・ランドルフだ。

別々では意味がない。

ソフィアのアイデアだけ、ランドルフ国の技術力だけ、どちらか片方では意味がない。


「楽観視して、途中でまた同じようになったらどうする」

「だからまだ話だけだよ。前向き検討中の」


その言葉にアレン・サンチェスがため息をついた。

それにヒーラー・メンセーは困ったように笑う。


「………婚約者にしたのに、まだ彼を試している途中なのかい?」

「当たり前だ」


当然だとアレン・サンチェスが頷く。


「元々ソフィアは子供離れした頭脳の持ち主だった。学園での勉学の方の頭脳ではない。それ以外の――国そのものを変えてしまえるほどの案の方を何もないところから出してくる」

「………」

「私の娘として生まれながら、私でも考えつかないことを唐突に何でもないように口にする。レオポルドとも違う。アレが男なら、何が何でも私はレオポルドを廃し、ソフィアを王太子にしただろう」

「おやおや。レオポルド殿が聞いたら怒りそうだね」


ソフィアが女だからこそ、笑える話ではあった。

アレン・サンチェスが真顔で言うから、更にヒーラー・メンセーは可笑しくて笑う。


「まぁ、向こうは常に影にソフィアを見張らせているから、政に疎いソフィアの手紙を止め、国としての返答をしてくるだろう」

「そうなのかい?」

「………だが、それだけだ」


アレン・サンチェスの言葉にヒーラー・メンセーが首を傾げる。


「あの王太子は、現状を改善する為なら何が何でも成し得るだろう。但し、“ソフィア・サンチェスの案”を元に、だ」

「………成る程ね」

「政は出来ようが、国そのものを豊かにしているのは実際にソフィアだ。案がなければ物は出来ない」


そこまで言い切り、ゆっくりとアレン・サンチェスはカップにまた口を付けた。


「じゃあ、期限はメンセー国が立て直すまで、かな?」

「………経済が半分近く戻るまで、だな」

「そんなに短くていいの? あの売れ行きならかなり早い段階でそこまでいくと思うよ」


手紙を送ったのは約5日前。

今頃ソフィア・サンチェスの手元にいってるだろう。

その間にも、新色の布は売れ続け、作る方が追いつかずに予約対応しているところだ。

今、その新色の布で伝統の服を作製することも準備している。

まだまだ売れるだろう。


「それぐらいあの小僧にプレッシャーをかけなければ意味はない。私は娘を、娘の案に頼り切りの男に、任せるつもりはないからな」

「やれやれ……」


2人の王は天井に視線を向ける。

何人かの気配が消えたのを察知したからだ。


「さて、彼は彼女の案以上の物を作り出すことが出来るかな?」

「1つや2つで許可するつもりはないがな」

「そんな短期間にポンポン案出して作って発展させられたら、私達の立場が無くなるじゃないか」

「む……」

「私達は端から見ればランドルフ国の技術に頼って、王宮内や国境の防犯をしているんだから。この数百年の間、動かなかった経済が大きく、良くも悪くも動き出している」


ヒーラー・メンセーもカップに口を付けた。


「………彼女を危険だと判断して手を打ってくる者も出てくるだろう」

「だからこそ、だ。1国を背負うなら、全て守らなければならない。そして万が一ソフィアを守れず、失ったとして――ランドルフ国がそれ以上成長しないなら、周りの国はソフィアだけの力だったと判断し、2度とラファエル・ランドルフに――ランドルフ国に関わらなくなるだろう。そうならないために、自分の力で国を発展させようと考えを持たなければならない。この程度の障害、簡単に乗り越えられぬようでは、ソフィアはあいつには勿体ないということだ」


アレン・サンチェスの言葉にクスリとヒーラー・メンセーが笑った。


「………なんだ」

「いや? 何だかんだ理由を付けて、結局はラファエル殿の成長を見守っているんだろう? 娘が可愛いからやはり返せ、という理由で誤魔化して」

「………私はアレを可愛いと思ったことはない」


苦々しい顔をしてヒーラー・メンセーを睨みつけるが、彼はまだにこにこ笑っている。


「ああ、それも別の理由で覆い隠してたっけ。まったく……君は昔から自分が可愛いと思っている事を知られたくなくて感情を覆い隠すんだから。ソフィア嬢に誤解されるよ?」

「………もうされてる」


昔からの付き合いで、繕っても無駄と思ったのか、アレン・サンチェスがため息をつく。


「ふふっ。まぁまぁ。彼は手本となる王を身近で見てないから知らない。もうちょっとゆっくりと成長を見守るのも大人の仕事だよ。彼はまだ未成年なんだから」

「ソフィアを奪っていく予定の男がそんな悠長な事でたまるか」

「私達も王位を継いだのは20代後半だ。娘が可愛いのは分かるけど、こっちも余裕の構えでやろうよ」

「………国を危うく潰そうとしていた王が言えた義理か」

「痛いよ言葉が。私もまだまだ精進しないといけないと、ソフィア嬢の言葉で身に染みたよ。ありがとうアレン。私にソフィア嬢を会わせてくれて」

「………フンッ。腐れ縁だ」


2人は夜が明けるまで、雑談を交えた話を続けていた。


 

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