第521話 無言の我が儘
部屋に戻り、ラファエルが改めてメンセー国王に手紙をしたためているときに、一緒にいさせてもらった。
その内容を見ながら、私は1国の王相手になんとも薄っぺらい返事を書いたものだ…とションボリしていた。
きっちりとした堅苦しい文章になりすぎないように、砕けてはいるけれど、ラファエルの手紙はちゃんと国としての返答になっていて、でもたまに個人的になったりと勉強になる。
…でも、本当に何故メンセー国王は私にだけに送ってきたのだろうか…
ラファエルに送らなかったのは何故……?
何か理由があるのだろうか…?
ラファエルの横顔を見ながら考えるも、分からない。
それ以前に私の手紙の返事の内容が気になるけれど。
「………私も書き直そうかな…」
「いいよ別に」
ペンを止めずにラファエルが返してくる。
でも、ラファエルの文章を見ていると、恥ずかしい以外の何ものでもない。
「でも……」
「大丈夫だよ」
最後に名前を入れてラファエルがペンを置いた。
折りたたんで封筒に入れ、なんとその中に私の回収された手紙が改めて同封された。
………って、ちょっと待って!?
「ちょ、ラファエル!」
止めようとする私を避け、きっちりと封蝋が押された。
………マジですかー!!
「はい、出してきてね」
ニッコリとラファエルが微笑み、ラファエルの騎士が回収して出て行ってしまった。
「私の手紙はあのままだとダメなんでしょ!?」
「俺の正式的な手紙でその問題は解消しているから」
「でも!」
「ソフィアのありのままの言葉で返して問題ないよ。メンセー国王がソフィア個人宛に手紙を寄越してきたのは事実なのだから」
ラファエルはそう言うけれども…
先程のラファエルの言葉が尾を引いている…
私はランドルフ国とメンセー国との繋がりをもしかしたら断ってしまっているかもしれないことを…
「俺が必要以上に神経質になっていたのも事実だよ」
微笑んでくれているラファエルに、どうしてもぎこちない笑顔で返すことしか出来なかった。
「………」
「………ラファエル?」
私の表情を見て黙ってしまったラファエルに不安になりつつ、首を傾げる。
「ああ、いや――」
ラファエルが何か言いかけたとき、ノック音がした。
「誰だ」
『ルイスです。ラファエル様、そろそろお時間です』
扉の向こうからルイスの声が聞こえ、ラファエルが腕時計で時間を確認する。
「ああ、すまん。時間過ぎてたな」
ラファエルが立ち上がって私に背を向けた。
私の手が思わず無意識にラファエルの服を掴み、引き留めてしまったことに気付いたのは、ラファエルがビックリして私を見下ろした後。
「――ぁっ……ご、ごめん……」
パッと手を離した。
何をやってるんだ私は…
ラファエルは仕事なんだから、私が引き留めてはダメだ。
「ぁ~俺のソフィアが可愛い」
「え……」
次の瞬間私はラファエルに私は抱きしめられていた。
「今日は仕事しない!」
「何バカなことを言ってるんだ」
ぁ……
ラファエルが叫んだ瞬間に、ラファエルの首根っこがルイスによって掴まれていた。
中々出てこないラファエルに、痺れを切らしたみたいだ。
怒っているようで敬語ではない。
「いやルイス! 聞いてよ! 滅多に我が儘言わないソフィアが、行かないでって引き留めてきたんだよ!? 可愛すぎでしょ! そんなソフィアを1人にして俺は仕事行かないから! ソフィアを可愛がるから! これは俺の死活問題――」
「はいはい。可愛いですねーでも死にませんからねー」
棒読みで返しながらズルズルとラファエルがルイスに引きずられていく…
「こら離せルイス! ぁぁ~! ソフィアぁぁああ!!」
私の方に手を伸ばされても助けられません…
ルイスは怒らせない方がいいので…
苦笑しながら私はラファエルに手を振り、見送ったのだった。
――この時私は、何故ラファエルを引き留めてしまったのか、その予感めいたものに気が付いていなかった。
そして、ラファエルが言いかけた言葉も、察することは出来なかった。




