第52話 日課に付き合います
少し距離を縮められた私とラファエル。
翌日から、動けない私を連れながら、ラファエルの日課に付き合うことになった。
ラファエルに抱き上げられて移動するのはやっぱり恥ずかしいけど、ちょっとは慣れました。
「じゃあ、ここで見ててくれる?」
「はい」
王宮の庭の一角のベンチに私はラファエルに座らされた。
「サンチェス国王女様。膝掛けをどうぞ」
「ありがとう」
侍女に膝掛けを渡される。
外に出るときはもうラファエルと二人きりにさせられないと、ルイスが私の怪我を知ったときに言われ、侍女2名、騎士5名を付けられることとなった。
………多くない?
侍女はともかく騎士が。
ああ、サンチェス国は兵士と言うけれど、ランドルフ国では騎士って言うんだって。
………ってどうでも良いか…
それにしても、侍女は私の両側に待機しているし、騎士は私の後ろで並んでるし……
ゆっくり出来ない……
そうこうしていると、ブンッという音が聞こえてくる。
前方を見ると、離れたところでラファエルが剣を振ってた。
ラファエルの朝の日課は素振り。
今日は私がいるから早朝、ではなく日がてっぺんの方に近い時間。
日本で言うところの9時とか10時くらいかな。
いつもは6時くらいにしているそうだ。
私と一緒にいるって決めたから、今日と明日はこの時間にしてくれたそう。
捻挫が回復しなかったら、更に伸ばすと言ってくれている。
働き過ぎのラファエルには、ちょうど良い休暇になるだろう。
………っと、説明口調で脳内で整理しながら、私はラファエルから視線を反らしていた。
何故かって?
ラファエルが上半身裸で素振りやってるからよ!
私が、恥ずかしいわ!
せめてタンクトップぐらい着ていてくれないかしら!?
こっちの世界にタンクトップ無いのは知ってるけど!!
テイラー国に言って作って貰おうかしら!?
「寒くありませんか? サンチェス国王女様」
「ええ」
その、“サンチェス国王女様”っていうの止めて欲しいんだけどな……
言っても名前を呼んでくれないから諦めているけれど。
ラファエルと結婚して初めて呼んでくれるのだろう。
それまで我慢、か。
「ソフィア」
「はい。なんですかラファエル様」
素振りが終わったのかこっちへ歩いてくるラファエル。
勿論私は視線を反らしていますよ。
何か着てから来てくれます!?
「ついてくる? って言っておいてなんだけど、寒さで足首痛くないか?」
「大丈夫です。膝掛けも頂いてますし」
「そうか。よかった。素振り終わったから、今度は打ち合いしたいんだが……」
「いつもしているお相手がいるのですか?」
「いや?」
首を横に振るラファエルに、私は首を傾げる。
「ソフィアに格好いいところ見せたいから」
「………そう、ですか」
一瞬固まってしまった。
「そこの騎士。相手して」
「じ、自分でありますか!?」
「そ」
ラファエルに指をさされた騎士が慌てる。
………まぁ、王子に仮にでも剣は向けられないよね…
「王太子。また無茶振りをしていますね」
「ルイス」
ちょうど近づいてきたルイスが、ラファエルに声をかけてきた。
「休暇中に申し訳ございません。確認して欲しい書類がございまして」
「どれ?」
書類をラファエルに渡すルイス。
ラファエルが確認している間に、私はさっき指名された騎士を見上げた。
まだ若い騎士だった。
男、というより男の子から男に変わる間、という感じの顔付き。
まだ騎士になって間もないだろう。
そりゃ畏れ多いとたじろぐわな…
それにそんな若手に仮にも王太子の婚約者の護衛に付けるとは…
ラファエルと話しているルイスを見る。
これだけ見ればルイスが私を軽んじていると思われるかも知れない。
けれど違うのだ。
今この国に熟練の騎士がいないのだ。
殆どの熟練騎士は、ジャックとチャールズの両王子派だったから、ルイスが一斉に切ったのだ。
今頃は牢で仲良く暮らしているだろう。
最近王城への騎士に配属された若手は、王と王子の意思に染まっていない。
だからその点に関しての反逆は無いだろうと判断され、私の護衛となった。
今のところライトとカゲロウが動かないから、問題は無いのだろう。
「はい。出来たよ」
「ありがとうございます。それから王太子」
「何?」
「若手の騎士を相手にされますと、今後使い物にならなくなるのでお止めください」
「………お前な…」
「王太子は手加減を知りませんから。さらに婚約者様に良いところを見せようとして暴走する危険がありますので、手合わせは止めて下さい」
「………結局鍛錬するなって事じゃないか…」
「はい」
「いや、きっぱり返事するな」
………面白いな。
ラファエルが押されてる。
「王太子は今鍛錬するより政務優先。その政務も休暇中ですからしないでください。ということで、鍛錬は終了です」
「………おい…」
ルイスに剣を取り上げられたラファエルは不機嫌になった。
止めてくれる?
私が機嫌を取らなきゃいけないじゃない…
「いつもこの時間にやってらっしゃることを婚約者様にお見せしては?」
「………分かったよ」
あれ?
ラファエルが素直に折れた。
そして私はラファエルに抱き上げられた。
「ふぇ?」
「じゃ、行こうかソフィア」
「ど、どちらへ?」
「行ってからのお楽しみ」
ニッコリ笑われ、私は固まった。
そしてそのまま連行されたのだった……




