第516話 新たな発見
最後にくるくると針に糸を巻き付けて締める。
パチンと糸を切れば完成である。
針をきちんと片付けて立ち上がって、それをバッと広げた。
「………出来た! どう!?」
クルッと振り向いてソフィーとアマリリスに聞いた。
「はい。完璧だと思います」
「さすが姫様です」
2人は笑って頷いてくれる。
私が作っていたのは――
「入るよソフィア」
「は――ってもう入ってるじゃない」
はい、と言う前にもうラファエルが入室してきていた。
むぅっと頬を膨らませる私を、可愛いと抱きしめるラファエル。
もはやお約束である。
「………何それ」
「お祭り用の衣装だよ」
ラファエルに抱きしめられながらも広げて見せる。
「………ドレスじゃなくて…?」
「お祭りには着物だよ! ね、ソフィー、アマリリス」
「「はい」」
2人はまたしっかりと頷いてくれる。
私が縫っていたのはこの世界にない着物。
浴衣は温泉用に作ってもらっているけれど。
「ふぅん。その辺は俺には分からないけど…でも、もうちょっといい色あったでしょ…」
ラファエルが残念そうな顔になる。
私が縫っていたのは、職人にお願いして布を薄水色に染めてもらったもの。
私には似合わない色だという。
その布に私はストライブを刺繍し、着物の形に縫っていた。
まだこの国では色を入れるだけで、部分的に色を変えたりとかは出来ないから。
「私用じゃないから当たり前でしょ?」
「え………だ、誰のなの!?」
ぉぉぅ……
めっちゃ真っ青な顔で顔を寄せられた。
ここで、誰の、と出てくる辺り、私の信用は皆無なのかと思ってしまう…
「男!? 男なの!? 分かった。その人物教えて。今から絞めに行くから」
そう言いつつも早々に出て行こうとしないで!!
「もぅ! 自分を自分で絞めに行くのもどうかと思うけど!?」
「………ぇ」
いや、そこで心底驚いた顔で振り向かないで…
私がラファエル以外の人に贈る物を何時間もかけて縫っていると思われたら、すっごく悲しいものがあるんだけど。
「ラファエルのだよ。私のはまたこれから縫うけど」
机の上には淡い桃色に染めてもらった布が置いてある。
2人とも薄い色はどうかとも思ったけれども、この世界にはまだ濃い色の服しかない。
淡い色の色を作るに当たって、いい色だと受け入れてもらうにはまずは見てもらわないとと思って、お願いした。
そうすれば淡い色の装飾品も、ドレスの色が多種になるのに合わせられるようになるだろうし。
「………ホントに!?」
「う、うん…」
ラファエルが本当に嬉しそうに顔をほころばせ、ギュッと私を抱きしめた。
「く、くるし……」
「あ、ごめん!」
力一杯抱きしめられた為、私は少し咳き込んでしまった。
「だ、大丈夫。ラファエル、ちょっと羽織ってもらっても良いかな? 長さを調整したいのだけれど…」
「喜んで」
そう言ってすぐに上着を脱ぎ始めるラファエルに、私はハッとして慌てて顔を背けた。
「い、いきなりここで脱がないでよっ!」
カァッと顔が赤くなる。
不意打ちなんて心臓に悪いし、ましてや人前では脱がないのが普通だ。
ちょっとでも視界に入らないように手で顔を覆った。
「だってソフィアが裾直ししてくれるんでしょ?」
「ひぇ!?」
い、言うんじゃなかった!!
こんな事で顔を赤くしている私が、調整なんて出来るはずもない。
「わ、私がするなんて言ってないでしょ!?」
「え~……」
心底残念そうな声を出さないで!!
「そ、ソフィー! アマリリス!!」
「「はい」」
………なんで2人は声だけでも苦笑しているのが分かる声で返事するかな!?
2人は私と同じでこういう事に免疫ないでしょう!?
着替えさせるのも私しかしたことないはずで、男の人のなんて経験ないはずだ!
「そうでもありませんよ」
………ぁ、ソフィーが私の心読んでる…
「わたくしはヒューバート殿の着替えをお手伝いすることがありますから」
「私もジェラルドを着替えさせますし」
「私の騎士は私の侍女に何させてるのかな!?」
意外なところで私より進んでた!?
「訓練で汗に濡れた服は脱ぎにくいですから」
「起きてこなくて駄々捏ねてるのを無理矢理起こして、着替えさせるときなども」
ということは、2人はそれぞれのパートナーの……その……は、裸……を見たことが何度もある、と!?
恥ずかしくなくなるぐらいは回数がある、と!?
「ラファエル様は今シャツ1枚ですから。素肌を見るのではありませんので、姫様もそう恥ずかしくはないのでは?」
「そ、そそそそういう問題じゃなくてですね!」
ラファエルは意外と身体引き締まってるんだって!!
運動してないけれども細身の男、とはわけが違うのよ!!
最初の時に、上半身裸で訓練しているのは見たけれども!!
それ1回きりだからね!?
あれから訓練に混じってるのも知ってるし、あの時よりずっといい引き締まり方してるんだろうけれども!!
シャツ1枚だなんて、モロにその体格が分かってしまうでしょ!?
その腕に何度も抱きしめられてる、だなんて考えてしまったら、もうのぼせてしまって鼻血が出ても可笑しくないからね!?
毎日薄着のラファエルに抱きしめられて眠っているのに何をいまさら、なんて突っ込みは要りませんからね!?
それとこれとはまた話が別なのよ!!
「………姫様……」
「心読まないでソフィー!!」
読まないようにしてくれてるんじゃなかったの!?
「え? なになに? ソフィアは何を考えてたの?」
「ラファエルもソフィーに聞かないで!! ソフィーも教えようとしない!!」
「………見てないのによく分かりましたね…」
「面白がって言われるの分かってるから!!」
ソフィーは地味に私に嫌がらせしてくるのよ!
ヒューバートとの事をからかったり、唆していた腹いせに!
私も同じように恥ずかしくなれ、と!
つくづくソフィーは私の半身なんだと思い知らされる!!
「出来ましたよ姫様」
アマリリスに言われて恐る恐る手を離すと――
………あ、死んだ。
綺麗に着付けされているラファエルの姿を見た瞬間に、意識が飛びそうになった。
自分で作っておいて、作るのではなかったと思った。
ラファエルによく似合っていた。
格好よ死する…
「………ラファエルがモテてる想像しか出来ない…」
「………何考えたのソフィア…」
ラファエルに呆れられつつ、ソフィーとアマリリスが手早く裾直しの準備を始めてくれたのだった。




