第511話 問題は起きるよね②
次の場所は食堂。
丁度食事時だったようで、みんな忙しくしていた。
「この時間、混むのね」
「はい。交代の騎士、並びに使用人と侍女が食事を取る時間になります」
腕時計で時間を確認すると、15時だった。
確か6時間交代だから、そうすると第一交代時間は9時、第二は15時、第三は21時、第四は3時、かな。
食堂の裏口から入ったのだけれど、四方にあるカウンターに次々と見習い使用人と侍女が膳を置いていっている。
「食事の種類は?」
私のはアマリリスやフィーアが持ってきてくれているから、選択するということがないんだよね。
「全部で3種類ですね。肉、魚、野菜メインの膳で、希望の膳を窓口で告げ、給仕が料理人から受け取ります」
「………ふぅん」
私は頷きながら視線を戻す。
「おい、俺が頼んだのは肉だ! これは魚だろ!?」
バンッと叩く音がして、私は騎士用のカウンターの方へ顔を向けた。
何事…?
そこには厳つい顔の男が見習い使用人に向かって怒っていた。
「す、すみませっ!! すぐに取り替えます!!」
「おい、こっちは野菜だ! これ違うだろ!」
「すみません!!」
………ぁ、混乱が起きてる…
1つ間違えば全部が狂ってくる。
「………ねぇソフィー、私が手伝っちゃ――」
「何考えてるんですか。させられないに決まっているでしょう」
「………だよね…」
混乱しているから手伝いたいけれど、ダメだよねぇ…
「おい! 早くしろよ!!」
………でも、ちょっと口出ししてもいいよね?
チラッとソフィーを見ると、眉間にシワを寄せられたけれど、ため息ついて微笑まれる。
よし、許可出たぞ。
「大声を出してはしたない」
「なんだ…と……!?」
最初に凄まれたけれど、私の姿を見た途端にひゅっと息を飲んだ男。
サァッと真っ青になっていく。
「王宮騎士ともあろう者が、少し短気すぎではございませんこと?」
「ソ、フィア、様…!!」
男も、その後ろにいた騎士達も、一斉に礼をした。
ついでに侍女も使用人も料理人も。
「わたくしとラファエル様が受け入れた見習い達が今、この王宮内で研修を受けております。最初のうちは多少のミスは許容してくださいませんか?」
「も、申し訳ございません!! 訓練で腹減ってたものでっ!! つい!!」
「わたくし達を守るために一生懸命訓練して強くなってくださっていることは、常に感謝しておりますよ。ありがとうございます」
にこりと微笑むと、騎士が真っ赤になった。
………ぇ……
こんな私の顔でも頬染めてくれるんだ。
なんか嬉しいかも…
って、勘違いしちゃだめだよね。
私の言葉に怒って顔を赤くしてるのかもだし。
「い、いいえ!! と、とんでもない!! 好きでしていることですから!!」
焦って言う男に苦笑してしまいそうになる。
そりゃ怒ってても、私の立場上、そう言うしかないわよね。
「慣れないことをさせていますので、もうしばらくの間は許容してくださると有り難いですわ」
「は、はい!!」
あ、声が裏返っている。
緊張させてしまってる…?
早めに退散したほうが良さそうだ。
逆上して襲われても困るし。
「お仕事の邪魔してごめんなさいね。続けてくださいな」
笑ってその場を後にした。
食堂の裏口から出た瞬間に、雄叫びが上がった。
今度は何事!?
『ずりぃぞお前!! ソフィア様に声をかけられるなんざ!!』
『お、俺、暫く訓練頑張れそうだ!!』
『お、俺も何かしたらソフィア様と話せるかな!?』
『お前は無理だろ!!』
………も、もうちょっと声を抑えようか…
なんで注意されて喜んでるの…
や、やっぱり、さっきのは嬉しくて顔を赤くしてたのかな…?
ちょっとは受け入れてくれてると、自惚れても…?
い、いやいや!
喜ばせて落ち込ませるという手かも…!!
「よかったですね姫様」
「な、何が!?」
「ソフィア様を認めて下さっている方が増えていますからね」
ソフィーの言葉が確信となり、なんだか照れくさくなって、私は足早にその場を立ち去ったのだった。




