第509話 知るのではなく理解して
ザワザワとザワついていた広場が一瞬で静まりかえった。
サクサク歩いて行くラファエルの後ろを私はついていく。
「よく集まってくれたね。今日から君達は王宮で働くことになる」
不安があったり、やる気があったり、様々な表情を浮かべる人達。
見習い服が出来上がり、今日から採用した彼らは王宮で働くことになる。
「君達が職を失ったのは王家の責任だ。お詫びする」
ラファエルは頭を少しだけ下げた。
それに動揺する皆。
「君達の救済処置と、そしてあるべき姿に戻すためにも、君達の協力が必要だ。宜しく頼む」
ラファエルの言葉が切れると、一斉に「はい!」と返事が返ってきた。
頭を下げるのはこれきりにして欲しいけれど。
民に見下されるわけにはいかないから。
「騎士見習いは、これから騎士訓練場へ移動し、それぞれの隊に分かれて隊長の指示に従うように」
ルイスが誘導し、迎えに来てもらった隊長らに連れて行ってもらう。
「使用人見習いは、本来私の下になるが、君達のやることは侍女見習いと変わりない為、一括してソフィア王女の下で管理させてもらう」
「宜しくお願い致しますわ」
ニコッと笑って言うと、使用人見習いは一様に不安気な顔になった。
………失礼な…
「わたくし、というより、わたくしの信頼する侍女達が教育させて頂きます。とはいえ、任せっきりになるというわけではございませんから、そのおつもりでいらしてくださいませ」
私の目がないからってサボることは許さない。
暗にそういえば、皆直立不動になる。
「一斉にお教えするのは時間がかかりますから、男女混合で複数の班に分かれてお仕事をして頂きますわ。ソフィー」
私が振り向いて後ろにいたソフィーを呼ぶと、ソフィーは礼をして少し前に出てくる。
「侍女の仕事は、主の身支度と身の回りのお世話、清掃、給仕、洗濯、来賓客のお世話、買い出し、とそれぞれ役割分担がございます。大まかに分けて行いますが、姫様のお世話とラファエル様のお世話には、最上級の専属侍女でなければお世話できない決まりになっておりますので、除外致します」
………ソフィー、さり気なく自分が最上級だと言ってるよ。
まぁ、不満はないけれど。
「清掃、給仕、洗濯、買い出しの4班に分けます」
「すみません」
ソフィーの言葉に手が上がる。
「どうぞ」
「中断してすみません。来賓客のお世話の班はないのですか?」
「来賓客は全て貴族位の方に限られますから、貴方方にはさせられません。貴族階級の方の中には位を持たない方を蔑み、嫌がる方もいらっしゃいますから」
「っ……」
「わたくし達は貴方方を同僚と思い、接しますが、そうではない方もいらっしゃると、ご理解ください」
「いえ、悔しいですがその通りです。ありがとうございます」
意見した男性は引き下がった。
「王宮内は広いですから、清掃担当の班の人数が必然的に増えますので、清掃班の中でも複数に分けます。そしてその班単位で日によって別の仕事を振り分けるようになりますので、連日同仕事となる場合もありますので、ご理解ください」
これまた「はい!」と元気がいい声が聞こえてくる。
やる気があるようで結構。
「ではわたくしからもう一言だけ最後にいいかしら?」
「どうぞ姫様」
「この王宮内に限らず、貴方方が自宅へ帰宅された後も、全ての行動がわたくしとラファエル様に筒抜けになっているとお思いください」
私の言葉にザワッと動揺が走った。
「滅多なことではございませんが、以前王宮内の物が失われている事もございましたし、お仕事に身が入ってらっしゃらない方がいたのは事実です。貴方方がそうなると思っているわけではございませんが、わたくし達と貴方方が初対面に等しいことを知るのではなく理解ください。皆様も初対面同然の方を最初から信用なさいますか?」
少し首を傾げると、自分が軽んじられていると嫌悪感が出そうだった人達がハッとする。
皆真剣に聞こうと私に強い視線を向けてくる。
やはり人選的によかったようだ。
「人に信用されたくば、それ相応の働きが必要です。わたくしとラファエル様が惜しむような人材になれるように努力して頂けると嬉しく思いますわ」
「そうだね。ソフィアの言うとおり、頑張って働いてくれ。本当に私達が惜しいと思ったなら、君達にいい話があるかもね」
茶化してくるラファエルに苦笑しそうになりそうになるも、笑顔を何とか保てた。
「では、皆の働きに期待している」
ラファエルが締めて、私は腰を抱かれてその場を後にした。




