第507話 騎士隊
応接室で押し掛けてきていた見習い候補を面接。
王宮へ、ということで、皆自分の持っている中で最上級の服を着てきたのだろう。
小綺麗に見えるようにはなっているけれど、やはり職がなくお金を持っていないのは一目で分かってしまう。
皆必死で自分をアピールしてくる。
募集要項には、本当に必要最低限、生活できるだけの報酬とあったのにも関わらず。
それでも勤務中の食事は王宮の食堂で取れるし、王宮内なら雨風の心配もない。
食堂のメニューは色々で、平民食用に提供する食事は、おそらく平民の家で作る食材の値段とそう変わらない。
侍女見習い候補の全ての面接を終えた私は、一先ず休憩である。
「………特に問題はなさそうね」
事前に私の臣下と精霊に調べさせたから元々問題はないだろうけれど。
問題はここから。
採用した後の働きぶりだけれども、お金を稼げるなら一生懸命にはなるだろう。
その後、実入りがよくなってからの態度が注意。
それも一応面接で言ったけれども。
何しろここは平民からしたら別世界。
王族が出入りする最上位の場所になる。
だから、実入りがよくなって横柄な態度になってしまえば、非礼により罰せられる。
最悪命を落とすことになる。
脅しではなく、本当の話だ。
現に、王族が王家の者に非礼を働き、罰せられた話もした。
………私の身内だけれども。
その話をすると皆怯えたが、働く意思は変わらないと最後には決意した顔になっていた。
階級も一生見習いから上がらない話をすれば、食い下がってくる者もいたけれど、王族と貴族と同じ待遇には出来ない旨を伝えれば、引き下がった。
心苦しいけれど、身分制度とはそういうものだ。
………そう、私自身に言い聞かせるも、心の中では辛かった。
王女として、無表情で淡々と話したけれども。
「皆、生活が今より豊かになるのなら、と必死ですからね」
「うん。ソフィー、彼女らを教育できる侍女はいるかしら?」
「例の者達から選んで宜しければ」
「いいよ。彼女ら相手なら問題ないだろうからね」
「畏まりました」
ソフィーが言う“例の者達”は、精霊侍女の事だ。
貴族相手じゃないから、大丈夫だろう。
「ソフィア様、失礼致します」
ソフィーとの話が一段落したとき、ノックと共にヒューバートが入室してくる。
「各隊長と副隊長をお連れしました」
「ありがとう」
私はソファーから立ち上がって彼らを見る。
入ってきたのは全部で4組。
8人の騎士達だ。
前方に4人、その後方に4人、それぞれ並ぶ。
「急遽集まってもらって申し訳なく思います。改めて、ソフィア・サンチェスよ。宜しくね」
ニッコリとすぐさま王女の顔を作る。
「第一騎士隊・隊長のブレイクと申します」
「副隊長のブライアンと申します」
「第二騎士隊・隊長のディランと申します」
「副隊長のコリンと申します」
「第三騎士隊・隊長のドミニクと申します」
「副隊長のイアンと申します」
「第四騎士隊・隊長のジェシーと申します」
「副隊長のカイルと申します」
………うん。
思ったことは1つ。
覚えられるか!!
だけだった。
みんな鍛えられている騎士で、体格がいい。
「ごめんなさいね。騎士のことはあまり知らなくて、粗相があれば謝るわ。4つの騎士隊があるということは、東西南北でそれぞれ管轄があるのかしら?」
「はい。第一~第四、それぞれ言葉通りに順序立てて覚えておられれば宜しいかと」
答えてくれたのはヒューバートだ。
騎士隊長よりヒューバートの方が階級的には上になるそう。
王家直属の臣下だから、らしい。
「じゃあ東が第一、西が第二、南が第三、北が第四、で宜しいのかしら?」
「はい」
ヒューバートが笑顔で頷いてくれる。
「ありがとう」
「いいえ」
「早速で悪いのですけれど、これから騎士見習いの面接をしますから、貴方達にも彼らを見て欲しいの。採用した見習いは四方に割り当てて、主に平民が住まう街を巡回してもらおうと思っているのですけれど、騎士と名のつく以上、ある程度の技術を習得してもらうために、暫くは彼らを鍛えて欲しいのです」
今回の人選には四方出身の者達をそれぞれ集めている。
人数に偏りが出ないように。
それに各街を巡回してもらうのだ。
顔見知りの平民じゃなければ意味がないから。
「ある程度はラファエル様とヒューバート様にご説明頂いておりますので、ご心配なく」
1人の隊長が答えてくれたのだけれども…
………ヒューバートに、様!?
そういうものなの!?
驚く顔は出来ないから心の中で叫んだ。
「足腰が丈夫だろう者達を選んだつもりなんですけれど、騎士のことは騎士にお任せすることが1番ですから、来て頂いたのですわ」
「ソフィア様の英断には、我ら感謝しております」
………英断!?
何が!?
「恐れながら『自分の考えが全て合っている、間違いなどありはしない』そういった考えをもつ御方がいらっしゃることは、否定できませんので……」
………ぁぁ……
思わず遠い目をしてしまいそうになった。
危ない…
彼らが少し眉を潜めている理由が、分かってしまうから…
「今後、何かあればわたくしかラファエル様にご相談くださいませね。命を懸けてくださっている貴方方を、わたくしたちは軽んじるつもりはございませんし、忠告も助言も騎士目線から伝えてくれると有り難いですわ。わたくし達よりそういう面での鋭い意見を、聞き入れないということはありませんし、わたくし達が間違っている場合もございますから。直接言い辛ければ、ヒューバートでも他のわたくしの騎士でも大丈夫ですから」
壁際に立っているオーフェスとジェラルドに視線を向けると、彼らも頷く。
「「「「「「「「ありがとうございます」」」」」」」」
「ひゃっ!?」
勢いよく軍隊並みに揃った礼をされ、私は驚いて飛び上がってしまった。
「も、申し訳ございません! 驚かせてしまいましたか!?」
「だ、大丈夫ですわ」
騎士達を慌てさせてしまって、私は慌てて笑顔を作った。
確かに驚いたけれども、予測できてなかった私にも非はある。
「では、そろそろ始めましょうか」
ラファエルがまだ来ていないけれど、騎士らも面接に来ている者達もあまり待たせるわけにはいかない。
私はソファーに座り直して、面接の準備を始めたのだった。




