第503話 忘れては困ります
ラファエルの急ぎの仕事――は私への確認だったけれども…それが終わって2人でメンセー国王が案内された部屋へ向かった。
応接室に行くとメンセー国王とお兄様がお茶を飲みながら待っていた。
「やぁ。終わった?」
「うん、終わった」
………ニッコリと満面の笑みでのやり取り止めて下さい。
すっかりお兄様はラファエルに注意しなくなっちゃった……
「お待たせして申し訳ない」
ラファエルがメンセー国王に言うと、王は首を横に振った。
「先程も言ったが、私が無理に押し掛けたんだ。謝る必要はない」
何も知らないって、いいな…
………ってかラファエル…
他国王にそんなに気安くていいの……?
こっちが優位だからいいの?
そういう問題…?
「失礼致します」
私が脳内で1人Q&Aをしているときに、ルイスが入室してきた。
「ラファエル様」
「ありがとうルイス」
さもラファエルが命令したように見せかけているけれども、真っ直ぐ馬車からここに来たからね?
ルイスが優秀なのか、ラファエルが密かに精霊伝いに言ってたかは分からないけれども。
上手く連携された動きで、ラファエルはメンセー国王の前の机に、ルイスから受け取った物を置く。
「これはうちで染めてみた布の色の束だ」
書籍みたいに本状になっており、端を固定しているために、机に散らからないようになっている。
メンセー国王が感心したように手に取り、捲っていく。
厚さは10cm程の物が5冊ほど。
「これ程までに色々な色が出せるのか。染めた見た目も綺麗だし、そして肌触りもいい…! 普通染めれば布の品質が変わるのに」
「ええ。着心地がいいのはやはりメンセー国の布の基本となる白だから、白の布で全て染めた。染料に入れる材料を色々実験して、1番良い物で仕上げたんだ」
「その材料とは!?」
メンセー国王の喰いつきが半端ないっ!
「それは秘密にさせてもらうよ。それを明かしてしまえば、メンセー国で染料を作ってしまえて、こちらとの取引がなくなってしまう」
「………ははっ! そうだな」
唇に人差し指を付けて言うラファエルに、メンセー国王が笑う。
「成る程。ラファエル殿は交渉にも向いていると見える」
………もしかして、ラファエルを試したのかしら?
やっぱり1国の王って侮れないよね…
「染料は我が国に輸入させてもらおう。全色大丈夫なのか?」
「可能ですよ」
「量はどれぐらいだ?」
「各色、平民の水瓶ほどの大きさの量を、1日5瓶程作れる」
平民の水瓶っていうと、私の腰までぐらいの高さで、横は普通の体格3人分ってところかな。
実際に見たことはあるけど、近づいたことないから大体だけれども。
「………いくらだ」
メンセー国王は唇を手で覆い、少し考え込んだ後、ラファエルに視線を向ける。
「そうだな……1瓶――」
ラファエルの頭の中には原材料と加工料、そして利益分の計算式がぐるぐる回っているのだろう。
………こういう時ってさ…
私はチラッとルイスを見た。
すると私の視線気付いたルイスが少しだけ目を細めた。
………ぇ…
私が首を傾げそうになった時、ノックの音がした。
「入れ」
「失礼致します」
ラファエルの許可の声に入ってくる人物。
あの時、ウォーと呼ばれていた臣下と同じ服を着た人物が2人。
「ファイとサンダ。どうした」
「どうした、ではございません…」
「何故我らにお声がけなさらないのですか…」
呆れた風に言う彼らに、ラファエルは首を傾げる。
「ラファエル様はご自分でやることに慣れていますからね」
ルイスの言葉に2人が思わずといった感じで息を吐いた。
「御前を失礼致します」
スッと机の上に赤い髪――多分ファイが書類を置く。
「この書類についてご説明させて頂きたいのですが」
「いいよ」
ラファエルが許可し、2人は頭を下げる。
「こちらはヒーラー・メンセー国王だ」
「この国の尚書を務めさせて頂いております、ファイと申します」
「同じく交渉を務めさせて頂いております、サンダと申します」
メンセー国王に自己紹介をする2人に、ラファエルが『あ……』という顔をする。
「ではご説明させて頂きます。こちらは染料の販売料金表でございます」
ファイが書類の説明に入った。
それが終わればサンダの交渉が始まるのだろう。
説明を聞きながらメンセー国王は頷いている。
こちらを見ていないのでラファエルが少し私の方に身体を傾けてくる。
「………すっかり忘れてた」
「………でしょうね…」
さっきルイスが目を細めたのは、もしかして褒めてくれてたのかもしれない。
よく気付きましたね、みたいな…
口を挟んでいないお兄様の方を見ると、苦笑していた。
まだまだラファエルも私も未熟だということだろう。
そんな事を思いながら、私はファイの説明を真面目に聞くために意識を向けたのだった。




