第501話 やりすぎですか?
キュッと最後の一線を書き終え、私はペンを置いた。
「取りあえず案としてはこんな物だとは思いますけど」
私は書き出した一覧をメンセー国王に差し出す。
王は受け取り、その後ろからお父様とお兄様が覗き込む。
………実にシュールな絵だな…
「柄のリストと、デザインリストか」
「ソフィア、この各色はランドルフ国に要相談って、何?」
お兄様に見られ、私はツイッと視線を反らしてしまう。
ラファエルにメンセー国から助けを求められたら、出せるアイデアがあると言ったのはまさしくそれだ。
「………ソフィア?」
「………えーっと……」
「ソフィア」
ニッコリと微笑むのは止めて下さい。
「その……カイ・メンセーから最初に詰め寄られたときに考えてたことなんだけど、ラファエルがランドルフ国でやるって言うから…」
「………案を渡しちゃったんだ…」
お兄様が半目になり、私は慌てて続ける。
「せ、専用の道具が必要だって言ったら、すぐに作ってしまったのだもの……それでランドルフ国で花の染料など造って、既存の布に染めて実験してるの…」
「成る程。我が国で1から始めるよりは、実験して既に仕上がっている布を輸入した方が良いということか…」
メンセー国王は特に気にしていないようだ。
「で、でも、今ある既存色はメンセー国が作ってるから、共同製作するなら染料はランドルフ国で造って、それをメンセー国に輸出すればメンセー国は染めるだけになるから…」
「ふむ。それなら新たにうちで染料造りの道具を増やすことをしなくていいな」
「幸い、ランドルフ国には各国の花を輸入する経路が確立されています」
ラファエルとルイスの手腕でね。
花風呂用に確保していた花で実験している。
草木染もいい感じに仕上がっているらしい。
そして――
「柄が縫える機械も造られ、量産型の刺繍も出来ます」
「ふふっ」
笑い出したメンセー国王に、私は思わず口を噤んだ。
「成る程? それを定期的に我が国が買えば、ランドルフ国はもっと潤うわけだ」
………はい、その通りです。
私の案は最終的にランドルフ国の利益になるようになっている。
「いいだろう」
スッとメンセー国王に手を差し出された。
………ぇ…
な、何がいいんだろう…
「お望み通り、ランドルフ国と取引しよう」
「い、いいんですか!?」
私は思わず立ち上がった。
こんなトントン拍子でいいのだろうか。
1国の王なら、もうちょっと思案するところだろうに。
「私をランドルフ国のラファエル王太子に会わせてくれ」
「え……」
ら、ラファエルに……?
王じゃなくて……?
王だと言われれば急いでルイスにお願いするところだったのに。
瞬き多く凝視してしまう私に、メンセー国王はまた笑う。
「私も1国の王だよ。急成長している国のことは調べるよ」
「ぁ……」
「あの変わりよう。他の国も警戒と好奇心でいっぱいだろうね」
それは、他国の王達は既にマテウス・ランドルフの事を知っている、ということか。
今誰が国を動かしているか、も。
「君が望んでいる後ろ楯。ラファエル殿にしてもいい」
「え!?」
こ、心を読まれた!?
あの時の誓約文章に不満があったの、顔に出てたのかも!!
「上手くいけば、我が国の経済は元に戻る。それが出来たのなら、ランドルフ国と同盟を結ぼう」
「本当ですか!?」
「ソフィア! 素が出てる素が出てる!」
「あっ!!」
お兄様に言われ、慌てて口を塞ぐ。
驚きすぎてつい!!
王になんて事をしたんだ私は!
「同盟を結べれば、染料の輸出代金の交渉できるし、機械の価格も融通してくれるかもだろう?」
………ぁ、そっち系で…
メンセー国にとってもランドルフ国にとっても、悪い話ではないということか。
私の口調に咎はなかった。
ホッとする。
スルーして下さってありがとうございます。
私は王女、私は王女。
「わ、分かりました。ラファエル様に連絡を取ってみます」
「宜しく頼むよ」
私は急いでラファエルに手紙をしたため、早馬で送ったのだった。




