第500話 原因を探りましょう
謁見室からお父様の執務室へ移動した。
直接助言を求められたのは私だけれど、今回の形はメンセー国王からサンチェス国王への正式依頼。
お父様と、ついでにお兄様も把握しておかなければならないこと。
けれどもメンセー国の内情にも踏み込んでしまうため、より密会できるお父様の執務室で話し合いとなった。
当事者以外、つまり宰相以下、兵士達も入室禁止とし、4人だけがいる空間となる。
上には影が待機しているけれど。
「では早速ですが、メンセー国王様、書類をお見せ頂けますか?」
「これだ」
メンセー国王に書類を渡される。
それはそれは分厚い書類で……
「………すみません、少々お時間を頂いても宜しいでしょうか?」
「勿論。ああ、それとソフィア王女」
「はい」
「私にそんな堅苦しい言葉遣いはしなくていい」
「え……」
ニッコリと微笑まれ、私は固まった。
1国の王に気安く話せと?
無理でしょ!!
「私は君に助力願う立場。私の方が下手に出ないといけませんね」
ひぃっと心臓が縮まる。
お、畏れ多すぎる!!
王に敬語を使われるなど!!
「や、止めて下さいませ!!」
「じゃあ君も止めてくれ。ここには私達しかいないしね。アレンもそれでいいだろう?」
突然フレンドリーになったメンセー国王に、お父様は顔を手で覆った。
「………はぁ。お前は……ソフィア、言うとおりに」
「………ですが……」
「こいつは1度言いだしたら聞かない。それにお前は集中すれば自然と生意気な口調になる」
「………ぇ……」
し、心外な…
私、他国王に対してそんな失礼なことしないよ!
「ソフィア、弁解できないから諦めな」
「お、お兄様まで何を仰るの!」
私ってそんな風に思われているの!?
「もういいからソフィアは資料に集中。親父と俺はもう目を通してあるから」
お、お兄様が口調を既に変えてる…
納得がいかないながらも、私は渋々資料に向かった。
押し問答してもどうしようもないから。
「………」
目を通していくと段々周りの音が聞こえなくなっていく。
メンセー国の特産品である布製品が売れなくなってきたのはここ数年の間。
マーケティング分析もよく出来ており、客層別にも調べてあってよく分かる。
主に購入が減っているのは平民だ。
貴族の購入数は一定値から下がっていない。
次の資料は――
ぺらっと捲って目を通すと、私はニヤリと思わず口角が上がったのに気づき、慌てて口を押さえる。
各国の購入別もあるとは。
ラファエルと見た資料にもあった。
サンチェス国の購入数は上がっている。
購入先は私の店に間違いない。
あれだけ色々な品に手を出せば、必然的にこうなるだろう。
そして一段と購入数が減っているのは、やはりランドルフ国。
私の案で重ね着することもなくなり、今まで持っていた服の着回して平民は服にお金を出さなくてよくなった。
次に購入するのはずっと先になるだろう。
「メンセー国王、商品の売り方について質問が」
ふと資料からメンセー国王に視線を向けると、3人が私を凝視していた。
「え……なに……」
「やっぱりくだけた」
ニヤニヤとお兄様に見られる。
何のことかと考え、バッと口をまた押さえた。
「あ、面倒だからもういいよ」
め、面倒って!!
思わずお兄様を睨んでしまったけれど、ニヤニヤ顔は変わらない。
「何かな? ソフィア嬢」
メンセー国王に聞かれ、私はグッとお兄様に向かって出かかった言葉を飲み込んだ。
………嬢、って呼ばれるの新鮮だな…
ぁ~もういいや。
口調は気にせずいこう!
「商品、どんな感じで売ってます?」
「どんな感じ?」
「実際見られればいいんですけど、メンセー国まではさすがに長旅になってしまいますから、口で説明頂けます?」
「えーっと……普通に布だけ売ったり、平民相手に既製品の服作って売ったり、だよ」
「既製品のデザインは? 年毎とか、季節によって、デザインや柄を変えてます?」
「? いつも同じだよ。多少テイラー国で人気のデザインを取り入れたりするけれど、やっぱり皆メンセー国伝統の服を好む」
成る程…
流行じゃなく、伝統第一、か。
国内だけならいいんだけれどね。
「では、メンセー国以外へ行商人が持って行く服のデザインは?」
「やはり同じだよ」
………それではみんな飽きちゃうよ。
資料を見ただけ。
1番簡単に想像できる原因を上げただけなんだけどな…
いきなり正解に辿り着けるとは…
………でも、多分コレは私が前世の知識を持っているからに過ぎないのだろう。
この世界では、こんな考えの方が斬新なんだろう。
「例えば、行商人に各国の民が好んで着ている服を観察してきてもらって、その国で1番多く着られているデザインを作って、各国に売りに行かせたりは?」
「………していない」
「柄物を作って持って行ったりは? 定番の所で夫人が好む花や、平民女性がつけている髪飾りに似た柄など」
「………いや…」
「………テイラー国で人気のデザインは受け入れがたくても、流行っている色の布を持ち込んだりは?」
「………」
最後は沈黙に……
ぁぁ……もう我慢できない……
「いくら布で特産作ってるっていっても、人それぞれ好みがあるからー!!」
他国王の前だというのに、思わず頭を抱えてしまった。
「貴族はお金を惜しまないからって、平民蔑ろにした布を量産しても売れないから!!」
机に突っ伏したまま叫んでしまう。
「貴族はお金は持ってるけど、平民は何倍も人口いるから!! 塵も積もればなんとやら!! 平民が買わなくなって貴族がいつもと同じ料金分しか買わないなら絶対にこうなるから!!」
バンと資料を叩く。
「平民蔑ろにした布製品で稼げるかぁ!! 原材料費にばっかりに出費がかさみ過ぎて赤字ばっかり出してたら当たり前にこうなるからー! 商売ナメるなぁ!! 購入者の身になって作りなさいよ! あるから売れるなんて考え傲慢でしかないからぁ!」
最後に立ち上がって叫んだ後、ハッとした。
や、やらかした!!
冷や汗をかきながらメンセー国王を見れば、ポカンと私を見ていた。
お、おわった……
私、終わってしまったよラファエル……
せ、せめて生きている間にもう1度だけでも会いたい…
「………言われてみればそうだね。何故今まで気付かなかったんだ」
………ぁ、ぁれ?
メンセー国王が考え込み、私から視線を外した。
た、助かった……?
「確かにソフィアが作った店も、甘味店も、平民を基盤としているよね。貴族はむしろ付属品」
………い、いや……お兄様……甘味店はラファエルだし……
貴族を付属品だとは思ってないよ…
「き、貴族は日替わりで服を着ますが、平民はよほど気に入った物か、着られなくなってきたからそろそろ買おうか、という考え方ですので……」
「成る程」
「で、ですから、平民が気に入りそうな布でなければ、必要最低限の物以外は買ってくれません。平民の財布の中には限られたお金しか無いのですから…」
私の言葉に3人が頷く。
メンセー国王はともかく、お父様とお兄様は当然だな、という頷きだろう。
「こほんっ。ですからメンセー国王様、買い手が商品を選べる以上、常に買ってもらう対策を打たなければ、毎回こういう事になります。あれば売れる、という考え方は傲慢ですよ。サンチェス国とは違い、布は買わなければ命に関わる物ではございませんから。サンチェス国も常に新種の食物の生産を考え、新しい食物を作っていますしね」
私の言葉に、メンセー国王は苦笑しながら納得したような顔をした。
原因が分かった以上、次は対策だ。
私は用意してもらった紙に、ペンを走らせた。
っていうか、お父様とお兄様は資料見て分かってたでしょ…
先にメンセー国王に伝えておいて欲しかったわ…




