表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
499/740

第499話 言質は大事です




馬車から降り立った瞬間、ザッと並んだ使用人達が頭を下げた。

………ぁぁ…

公式の出迎えは、こうなのか…

あの時のローズの言葉が思い出される。

私は顔には出せないけれど、ゲッソリとしてしまう。

見上げた先にはサンチェス国王宮が、相も変わらず聳え立っている。


「………姫様」


馬車から降りても歩き出そうとしない私の後ろから、小声で促される。

ゆっくりと歩き出す。

久しぶりに着たサンチェス国王女用のドレスは、何とも軽い。

ランドルフ国でのドレスは、生地の厚さで寒さに対応しているところがあるから、重いのよね。

王宮の扉まであと少しということころで、ゆっくりと重い音を立てて扉が開いていく。

私が立ち止まることなく歩いても問題はない。

王宮に一歩足を踏み入れると、そこにお兄様が立っていた。


「お帰りソフィア」

「ただいま戻りましたお兄様」


私はドレスを摘まんで腰を落とす。

お互いに作った対応をするにはわけがある。


「さぁ、謁見室まで行こうか」


お兄様の手に自分のを委ね、ゆっくりと歩いて行く。

………ここにラファエルがいればな…

なんて思ってしまう。

正式な帰国となった私は、ランドルフ国から馬車での移動だった。

その長い移動の間、ラファエルがいれば、なんて事を何回考えただろう。

そもそも私が急遽帰国することになった原因は――


「レオポルド様、並びにソフィア様、ご到着なさいました!」


謁見室の手前にいた兵士が叫び、扉が開いていく。


「………よく戻ったソフィア」


謁見室の椅子に座っている、お父様からの手紙でだった。


「ただいま戻りましたお父様」


内容は――


「ソフィアは初めて会うな。メンセー国王の」

「ヒーラー・メンセーだ。宜しく頼む」


メンセー国から正式に助けを請われた、というものだった。

そして、カイ・メンセーからやはり話があったらしく、正式に私のアイデアを求めたいとのこと。

お父様の対面に座っている者が立ち上がり、私に頭を下げてくる。


「ソフィア・サンチェスと申します。お見知りおき下さいませ」


………ってか、ヒーラーって……癒し?

メンセー国王はストレートの蒼い髪色に、蒼い瞳。

表情は柔らかく、まさしく癒し系イケメン。


「ソフィア王女には急遽こちらに足を運ばせてしまって、申し訳ない。けれど、我が国はもう存続の危機が秒読みで、意地で民を死なせるわけにはいかないのだ」


イケメンに切羽詰まった顔で嘆願される。

………これ、私が断ったら悪者じゃないか。

お父様の命令だから断れないけれども!!


「………この未熟なわたくしでお役に立てるのであれば、なんなりとご協力致しましょう」


本当は、嫌なのだけれども…

私は他国にまで気を配れるほど、出来た人間ではない。

サンチェス国とランドルフ国の民の生活向上以外に抱え込めるほど、私の両腕は広くない。


「ですが1つ、ご了承頂きたいことがございます」

「なんだ」


真っ直ぐに私を見てくるメンセー国王。

整った顔に真剣に見られては、怖じ気づいて、たじろいでしまいそうになった。


「我が父の文で大体の願いは把握しております。メンセー国民のためにわたくしの知恵を借りたいと」

「ああ」


間違いない、とメンセー国王は頷く。


「ご子息から如何様にお聞き及びかは存じませんが、わたくしはメンセー国王が見ている目の前のわたくしでしかございません。まだ成人もしていない小娘の知恵が、同盟国と言えども他国の全ての責任を負うことは出来ません」

「ソフィア」


お兄様に小声で窘められるけれど、私はメンセー国王から視線を反らさなかった。


「わたくしがメンセー国の窮地を救えなかったとしても、一切サンチェス国とランドルフ国の責任にはしないで頂きたい」


シーン……、と謁見室の音がなくなった。

私の心臓はドクドクいっている。

目の前にいるヒーラー・メンセーは、穏やかな顔をしていても、1国の国王だ。

私なんか、その気になれば一捻りだろう。

でも私は、この言質を取っておかなければ協力なんて出来ない。

責任を負わねばならないサンチェス国とランドルフ国以外の国の責任も負え、だなんて荷が重すぎる。

そんなことは出来やしない。


「勿論」


沈黙が暫く続いた後、くすりと笑う声がした。

そしてゆっくりとメンセー国王は頷いた。


「本来ならば、私が解決しないといけなかったこと。自分で対処が出来ず同盟国に縋りついた私に、知恵を貸してくれる姫に感謝こそすれ、責める資格などありはしない」

「………では、誓約書を作って下さいますか?」

「その必要はない」


お父様がそう言うが、メンセー国王はそれを制して、私の言ったとおりに誓約書を書いてくれる。

そして持っていた玉璽を押し、お父様にも押すよう願った。

誓約書には、『ソフィア・サンチェスの案の結果が悪く作用しても、一切サンチェス国とランドルフ国、そしてソフィア・サンチェス自身の責にしない』と書かれてあった。

ホッと小さく息を吐く。

更に、『ソフィア・サンチェスの案の結果がよい方向に向かった際、ソフィア・サンチェスに対し、忠誠を誓うと誓約す』とも。

………これはいらない…

後ろ楯なんて、王女の私には必要ないよ…

むしろそれならラファエルの後ろ楯になって欲しい…

メンセー国は元々、ランドルフ国よりもずっと大国なんだから。


「これはサンチェス国王に持っていてもらおう」

「………分かった。ソフィア、頼んだぞ」

「畏まりまして」


私はゆっくりと礼をした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ