第497話 暇と思ってごめんなさい
「そういえば姫様」
部屋で刺繍をしながら暇つぶししていると、唯一私の部屋にいたアマリリスに声をかけられる。
騎士達は皆、街へ散らばって人材捜し中。
ソフィーは侍女統括の仕事。
「………何?」
「お気をつけ下さいね」
………何を?
言われた言葉の意味が分からず、数秒固まってからアマリリスを見た。
「………何を?」
考えても分からないことは聞くに限る。
心の中で思った言葉をそのまま口にする。
「例の件、動き出すのは確か各国の学園が長期休暇に入ったときですから」
「………は?」
例の件?
各国の学園の長期休暇に入る日付は違えども、重なる日にちはある。
確かサンチェス国もそろそろ長期休暇に入る。
………それが?
首を傾げると、アマリリスが苦笑する。
「恋奪2、ですよ」
「………ぇ……」
それって確か『恋する乙女は美しい~強奪愛は情熱的~』の続編……
「………………は!?」
思わずガタッとソファーから立ち上がった。
ユーリア・カイヨウをようやく追い返せたのに、またなんか始まるの!?
お腹いっぱいですよ!?
「確かこの時期に始まって、マジュ国に聖女が召喚されます。そして攻略対象王子を各国を回って集めます」
「………ねぇ」
「はい」
前に思った疑問をアマリリスに確認するのを忘れていた。
「前に説明してくれたその続編ってさ、確か各国に起こっている怪奇現象を解決するって言ってたよね」
「はい。間違いないです」
アマリリスが頷くが、私は眉を寄せる。
「………ランドルフ国に怪奇現象、起きてる?」
そもそもの疑問がここだ。
なんだよ怪奇現象って。
今のランドルフ国に何が起こってるっていうのさ。
「それなんですが……」
「………ん?」
言い辛そうにしているアマリリス。
私はまた首を傾げる。
「そもそもランドルフ国に万年雪が積もっていて」
「………うん」
「頻繁に雪崩が起き」
「………うん」
「人が巻き込まれ、家屋が巻き込まれ」
「………………」
私は段々半目になっていくのを、どこか他人事のように思う。
なんか、オチが途中で分かってシラケるような、そんな感じ。
「………困っている、という」
「怪奇現象じゃないよねそれ」
怪奇じゃなくて、自然現象だから。
対策打てばなんてことない、回避できることだから。
「それなんですが…魔術国がメインですから、魔物とか色々出てくるんですよね…」
「え……」
ま、魔物……!?
驚いたのは一瞬で、私はドッと疲れてソファーに座った。
そもそも精霊がいるのだから、今更魔物が出てきても可笑しくない。
だって、私続編知らないし、精霊も知らなかったし…
「確か魔術国――マジュ国から姿を消した魔物が各国で問題を起こし、それを鎮圧するのが聖女の役目、でした」
「………ねぇ」
「はい」
1つ、どうしてもハッキリさせたいことがある。
「………恋奪……運営はどの方向へ向かわせたいの?」
「恋愛アドベンチャーゲームにロールプレイングゲーム要素を取り入れ、シミュレーションゲームへも手を伸ばし――」
「………迷走しすぎでしょ」
「はい」
アマリリスが深く頷き、私は深く息をついた。
「………じゃあ、ランドルフ国、そしてサンチェス国へも、その魔物とやらが来る可能性があるのね?」
「はい。ですが、ランドルフ国に雪が北しか積もっていないので、ゲーム通りにいかない可能性が」
「それはユーリア・カイヨウがラファエルの婚約者になっていない時点で、筋書き通りにいってない」
「………そう、ですね」
取りあえず、究極精霊に協力してもらい、四方を見張ってもらって、異変が起きれば連絡をもらえるようお願いした。
暇だなんて思っててごめんなさい。
暇でいいです。
もうトラブル持ってこないで下さい。
私は切実に祈ったのだった。




