第496話 盲点でした
フィーアとアルバートを公爵家に残し、私達は王宮へと戻った。
ラファエルとルイスは私の伝えたスキー場と除雪機を作るため、別れた。
私はというと――
「………暇だ」
また暇人と化していた。
「私もスキー場に関わりたいぃ…むしろ滑りたいぃ!」
「………ソフィア様…」
騎士達に呆れた顔で見られようが、私はなんとか暇を潰したいのだ。
学園が休みと言っても宿題が出てるわけでもないし…
ラファエルが仕事ならデート出来ないし…
「………そういえば、アマリリスとジェラルドはいつデートしてんの?」
ふと気付いて仕事しているアマリリスと、壁側に立っているジェラルドを交互に見る。
「ひ、姫様!?」
「してないよぉ」
焦るアマリリスとは違い、ジェラルドはのほほんとしている。
「………なんで?」
「? デートってしなきゃいけないの?」
………ぇ…
思わず唖然としてしまった。
ポカンとオーフェスとヒューバート、それからソフィーまでもがジェラルドを凝視する。
「マジかー!!」
頭を抱えてしまう。
ソフィーとヒューバートよりも、フィーアとアルバートよりも、ジェラルドが最優先だったんじゃないの!?
「いいえ、姫様。私もそういうのはいいです」
「………は!?」
アマリリスが手の平を私に向けて首を横に振っている。
………いや待て。
アマリリス…アンタは普通の女子だったでしょ!?
なんでそんな枯れた風になってるの!?
え?
え!?
アマリリスってジェラルドの事好きだよね!?
好きならデートしたいよね!?
「私は恋とか愛よりも、姫様の世話が出来る1人前の侍女に早くなりたいですから!」
………マジかー!!
こっちもか!!
っていうか、なんでそうなった!!
なんで拳を握って力説されなきゃいけないんだ!!
「なんでアンタは私のことをそんなに優先するのよ!」
「姫様ですから」
「え、意味が分からない」
首を傾げると、アマリリスがソフィーを見る。
「姫様ですから、ですよね?」
「そうですね。姫様ですから」
………いやだから、サッパリ意味が分からないって!
「私が本来ジェラルドと婚約することになったのは、ジェラルドが公爵家の者だからです!」
いや、そんなキッパリ言うなよ!
「初心がぶれてしまっては、私はまた同じ事を繰り返します!」
胸を張るな!!
威張れることじゃないからね!?
っていうか、過去に犯した罪を堂々と公言するな!
一応私達以外――というか、知っている者には箝口令をしいているけれども!
何処から洩れるか分からないんだから!!
王女の侍女が犯罪者だって知られたらマズいから!!
「私は恋愛に現を抜かしている暇はありません! 二兎を追う者は一兎をも得ず、です!」
その言葉は私以外――私とソフィー以外には分からないだろう。
首を傾げる者が多数。
「………アマリリスの口からその言葉が出てくるとはね…」
私は苦笑する。
そこまで言われては、無下には出来ない。
でも何もないのも問題だ。
ジェラルドも、いつ公爵家に呼ばれるか分からないのだから。
アマリリスの事を正直に話されて、婚約をなかったことにされても困る。
そう言うと、ジェラルドが首を傾げたまま、不思議そうにする。
「俺もそういう事には疎くないつもりだよ。家族でも騙せる自信はあるよ」
ジェラルドの口から出る言葉とは思えず、全員がジェラルドを凝視するという珍現象が起きた。
「俺はアマリリス好きだし、台無しにするつもりもないしぃ」
………普段のジェラルドとは別人のようで、格好よく見えた。
うわ……ジェラルドがイケメンに見える日が来るとは…
「………ジェラルドも男だったんだねぇ…」
「これでもソフィア様よりも年取ってるよぉ」
「………そうでした」
普段が普段だけに年下に見えるが、ジェラルドはこれでも20歳だった。
「長期休暇中はソフィア様優先で問題ないと思うよぉ。ソフィア様が学園にまた通い出したら、アマリリスも時間取れるしぃ」
大人な態度に、私は噴き出してしまい、それにつられて全員が笑ったのだった。




