第494話 バレていたようです
お風呂から出て、フィーアに新しいドレスを着せてもらう。
これは誰のだ…
じっと眺めていると、フィーアが少し焦る。
「も、申し訳ございません。わたくしがお義父様――公爵と夫人に贈られたドレスの中の1つで、姫様に似合いそうなのを選ばせて頂きました」
「謝らなくていいよ。ありがと」
「あ、いえ……」
お下がりだけれども、落ち着いた物で気に入った。
………ただ、緩いけれどね!!
主に胸元が!!
思わずフィーアの胸元を、恨みがましい目で見てしまった。
「ひ、姫様…?」
「………何でもない。みんなは何処に?」
首を横に振って話を変える。
羨んでもないものはない!
そう割り切らなければ悲しいだけだ…
「全員談話室かと」
「分かった。案内して」
「はい」
フィーアの案内で談話室へ向かう。
アシュトン公爵家は落ち着いた木の造りで、色も自然色。
田舎富豪の別荘、っていう感じかな。
公爵だから広さはあるのだけれど、贅沢、とは思わない。
………今までの公爵家が豪華すぎたからかも…
私の目はこっちに慣れたなぁ…
「失礼します」
私が遠い目になっていると、フィーアが一室のドアをノックした。
そして中から声が返ってくると、ドアを開いた。
「姫様、どうぞ」
「ありがとう」
私が足を踏み入れると同時に、目の前にラファエルが。
は、早い…
「ソフィア、そのドレスも似合ってるね」
「あ、ありがとうございます。フィーアのドレスをお借りしてしまいましたの…」
「そうなんだ。ありがとうフィーア」
「いえ」
ラファエルは微笑んだまま私の手を取った。
「座らせてもらおう」
「はい。失礼しますわ」
公爵達に一言告げて、私はラファエルと共にソファーに座った。
「改めて紹介するよ。私の婚約者のソフィア・サンチェス王女だ」
「ソフィアです。宜しくお願い致します」
「私も改めましてスノー・アシュトンです」
「妻のリリアです。ソフィア様にお目にかかれるなんて、夢みたいですわ」
うっとりと夫人に見つめられた。
………ぇ、なんで?
夫人はおっとりとした感じで、見た目30代なんだけれども、実際は45を越えているらしい。
後頭部で髪をお団子にしている。
細身でスタイルもいい。
いわゆる美魔女、って感じか。
「ソフィア様は我が領の民にも施しをしてくれましたよね?」
………何故知ってるんだろう。
あの時私は自己紹介もしてないし、王女だと分かる格好でもなかったのに。
それに、公爵や夫人に会ってもない。
「………どなたかとお間違えでは?」
「いやですわソフィア様」
「あれだけ城下で騒がれていれば、顔を見ていなくとも、会っていなくとも、すぐに分かりますよ」
2人に言われ、私は苦笑する。
「それにそれを聞く以前に、おおよそ分かっておりましたし」
「え……」
「あの貧困した民に食を配っていた女性は、女神のように肌艶がよく、立ち振る舞いが洗礼され、慈悲深き天使のような方だったと民は申しておりました」
………誰だ。
「ああ、まさしくソフィアの事だね」
ラファエル、満面の笑みで肯定しないで下さい。
「ランドルフ国にそのような施しを自らして下さる貴族などおりませぬ」
「………」
それもどうなの!?
貴族以前に人としてどうなの!?
「皆、自分たちの領地を守ることに必死でしたから」
「………そう、ですわね」
「そんな中、ランドルフ国中の民に惜しみなく食を配れるのは、ラファエル様が婚約した食の国のソフィア王女しかおりますまい」
………ランドルフ国元王子より、公爵の方が先に情報を掴んでいた時点で、彼らは能力がないに等しいと、改めて私の中の評価が落ちた。
「………それでも、もう少し早ければ、と思っていました」
「何を仰いますの。ソフィア様がいらして下さったからこそ、民はあれ以上失われることがなかったのです。本来ならわたくし達がやらなければならなかったことです」
「そう思っていても、我々は北の民を何とか生き延びさせることしか出来なかったのです。国中の食を担う蓄えはありませんでしたので…」
「何を言う。公爵は良くやってくれた。北の民の生存率は他に比べて約3倍だ。それだけでも大義だった。備蓄の件は他の領地にも通達し、全員が貧困に耐えられるように備えなければな」
もう搾取されることはないだろうけれど、国庫も無限じゃないし、これからもないとは言い切れない。
ラファエルの言葉に私は頷いた。
ないとは思うけど、戦とかにもなるかもしれない。
そんな場面は来ないと願いたいけれども、対策はし過ぎることはない。
いくらでもあっていいのだ。
「取り急ぎ、北の雪崩対策を早急にどうにかしよう。民家が壊れ続ける一方なのは問題だからな…」
今回の雪崩で、チラ見しただけでも何軒か壊れていた。
新しく建てている間にまた雪崩があったらダメだし。
「ラファエル様、雪崩が起きる前提ではなく、雪崩が起きないように対策を打つことも考えませんか?」
「何かあるのソフィア?」
「はい。除雪機、雪を吸い込み、別の所に積み上げる機械です。街や村から離れた場所へ移動させるのです」
「除雪、か」
ラファエルが顎に手をつける。
………イケメンだからそのポーズも格好いいね!
っと、そうじゃない。
「それと、雪で遊び場は作れませんか?」
私の言葉に、全員がポカンとした。
………ぁ、ぁれ……?
みんなに見られた私は、冷や汗をかいてしまった。




