第493話 ちょっと気になる
精霊のおかげで思いの外早く、雪崩によって埋まっていた民家を掘り出すことが出来た。
扉の下まで雪が溶けると、精霊達は解散していく。
ちなみに溶けた雪水は、水精霊達水の精霊が浮かせて、火精霊達が気化させた。
何でもありか…精霊凄いな…
未だにポカンとしているアシュトン公爵に、ラファエルが近づいていく。
「公爵、早く皆に連絡を。出てきても大丈夫だと」
ラファエルの言葉にハッとして、公爵はついてきていた自分の所の騎士に指示を出す。
騎士達もハッとして急いで走って行った。
近くの家から恐る恐るといったようにゆっくりと扉が開いて、民達が顔を出していく。
みんな何故こんなに早く…と首を傾げながら。
「ラファエル様、ソフィア様、先に我が家へ移動下さい。まだ民達にお披露目は早いでしょう。フィーアに案内させます」
「ああ、そうだな」
「こちらです」
公爵の言葉に素直に従い、フィーアに促されその場を立ち去る。
ちなみに連れてきた精霊使用人は、他の精霊と同様、作業が終わった時点で王宮へと帰らせた。
少人数で移動するも、だいぶ目立つ。
そそくさと心持ち早足で公爵家へと向かった。
公爵家につけば、私はフィーアにお風呂に問答無用で押し込まれる。
「あっつ…!」
自覚はなかったけれども、思いの外身体が冷えていたようだ。
王宮と同じ定温のはずの湯船の湯が熱く感じる。
「大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。厚着してきたのに冷えてるんだなぁ…って」
「お顔が真っ赤になっていましたから」
「あ、そうなんだ」
スリスリと両手で頬を擦る。
そうすることで感覚が戻ってきた気がする。
「なら、ラファエルも冷えてるよね……早く出て――」
「しっかり暖まって下さいませ。殿方など温めた布で充分です」
酷いな扱いが!!
アルバートならともかく、さすがに王太子にホットタオルだけはマズいと思うよ!?
「それに今はお義母様がお相手しているでしょうから」
「………ぁぁ」
私は挨拶もそこそこにフィーアに連れて来られたから…
アシュトン公爵夫人は、まだ見た目若そうに見えた。
子がもう難しい年だと聞いてたけれど、見た目だけで言えばまだまだいけそうだった。
「他にも使用人はいますし、足湯とかも提供されていると思います」
「足湯! 私もしたい!!」
「………姫様は全身浸かってます」
「………ですね」
でも、足湯だけもしたい。
今度王宮でやってもらおう。
「こっちの雰囲気はどう?」
「いいですよ。皆穏やかな顔で過ごしております。お義父様の治政が宜しいのでしょう」
まぁ、あの公爵は見るからに悪政はしないだろう。
内に抱える闇も今のところ感じられないし。
「………問題は?」
「今のところはないです。民達の評価も悪くありません」
フィーアの言葉に1つ頷く。
「そう。じゃあこのまま様子を見て」
「はい」
外にもれないように小声でボソボソと会話する。
「周りの貴族にも目を光らせておいて」
「心得ております」
こちらに私とラファエルの手の者がいると助かるのも事実。
他の地方にもそれが出来たらすぐに状況が分かるのだけれど、そうも言ってられない。
だいぶ先のことになるだろう。
「それにしてもこっちの家の土台がちょっと気になるな…」
「………土台、ですか?」
「うん」
雪崩が多くてそのせいで劣化しているのだろうけれど、前回傷ついた土台を修理せずにそのままって感じだった。
いつか民家全部無くなっちゃうよ。
「ラファエルに相談して対策しなきゃ…」
何か出来ることがあればいいのだけれど。
雪崩だからな…
積もる箇所が限定されればいいんだけれど…
………ぁ、スキー場作りたい。
雪で遊びたい。
………って、そうじゃないや…
除雪機作って貰って、定期的になだらかにしてもらって…
「姫様」
「………ぇ?」
「そろそろお出にならないと、のぼせるかと」
一瞬何を言われたか分からなかった。
その時点で結構のぼせる前兆だったのだろう。
自覚したらちょっとクラクラしてきた。
「………ぁ、そうだね」
タオルを広げて見せるフィーアに頷き、ゆっくりと立ち上がった。
さすがに肌を見せるのに抵抗なくなってきている。
少しは馴染んだかな…と思いながら、広げられたタオルに向かって歩いた。




