第490話 邪魔者再び
「ソフィア様ぁぁぁあああぁぁぁあああ!!」
ラファエルと一緒に温泉街で可愛い小物を見ていた。
いつの間にか私の立ち上げた店の子会社――支店が温泉街に出来ており、顔見知りの店員と話しながら、ラファエルとどれがいいか選んでいるときだった。
ラファエルは私が気に入った物は全部買うと言って、私が断り、それでも駄々を捏ねるラファエルを宥めながら。
「………出た…」
ドドドドッと土煙を上げながら走ってくる者がいた。
皆さん、お分かりですね。
毎度お馴染みのアルバートですよ。
ラファエルの話じゃ、アシュトン公爵家に行っているはずなんだけれども?
………っていうか!!
大声で私の名前を呼ぶんじゃないわよ!!
服装でバレてたけれども!!
民達が遠巻きに見ていたけれども!!
更に距離を開けられたよ!!
「助け――」
突撃しそうだったアルバートを止める者がいた。
オーフェスとヒューバートだ。
私の前に立ちふさがってくれる。
「――アルバート」
「は、はいぃ!!」
オーフェスが地を這うような低い声で名を呼んだだけ。
それだけでアルバートが直立不動になった。
おお!!
凄いぞオーフェス!!
「………ここは何処だ」
「え、お、温泉街?」
「………こんな公の場でソフィア様の名を叫ぶなどと…!」
あ、オーフェスの額に青筋が…
「ソフィア様を危険に晒したいのか貴様っ!」
あ、キレた。
ありがとうオーフェス。
オーフェスが言わなければ、私がキレてたよ。
あんな大声で叫ばれたら、王女の私がここにいますと、広範囲に暴露している事になる。
良からぬ事を企む者に狙われる可能性はなきにしもあらず…
大層なことじゃなくても…小さいことなら、お金を持ってるだろうと思ってスリにあうとか…?
オーフェスとヒューバート、そしてラファエルの騎士達もいるから大丈夫だとは思うけどね。
それにアルバートが叫んだときから精霊達の警戒度が上がったし。
自動警戒みたいで、助かる。
「す、すんません!!」
「謝って済むか!! 今日という今日はお前に騎士としての立ち振る舞いと、貴族としての振る舞いを叩き込んでやる!」
いいぞー。
やれやれー!
「………ソフィア」
「………はい?」
微笑みながら眺めていると、ラファエルに呼ばれ、見上げた。
するとラファエルに苦笑しながら見られていました。
「………あれ、止めないと更に注目浴びるよ」
「………ぁ」
ハッとしたときにはもう遅かった。
オーフェスが文字通りアルバートを叩きのめしていた。
………どうでもいいけれど、それ…立ち振る舞いの教育じゃないよ。
「オーフェス」
聞こえないかもしれないけれど、一応声をかけた。
「はい」
すぐに答えたオーフェス、さすがだ。
「それは後にして、その者の用件を聞きたいのですけれども」
「くだらない話だと思いますが」
身も蓋もない。
「わたくしの騎士が困っているのです。主として聞く義務もございます。ここではなんですから、帰ってからになりますが」
「畏まりました。馬車を用意致しますのでお待ち下さいませ」
オーフェスは言うと同時に、地に伏しているアルバートを引きずって歩いて行く。
体格が大きく違うアルバートを、余裕で引きずっていくオーフェスの腕力を不思議に思う。
「じゃあ、これとこれとこれとこれを包んでくれる?」
「畏まりました」
………って!!
ちゃっかり、どさくさに紛れて何買ってるのラファエル!?
さっき、どれか1つでいいって言って選んでた最中だったよね!?
しかも店員も店員で、私が遠慮するの知ってて素早く袋に詰めるんじゃない!!
「あ、あの…」
「じゃあ、帰ろうかソフィア」
「あ……は、はい……」
ラファエルずるい…
私が貴方の笑顔に逆らえないの知ってて…
私は諦めてラファエルに手を引かれるまま、その場を立ち去ったのだった。




