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第49話 おねだりされました




「ねぇソフィア」


ラファエルに話し相手して欲しいとお願いした私。

ご機嫌なラファエルが対面側のソファーに座って、ニコニコ笑って私を見ていた。

恥ずかしいと思いながら、紅茶を飲んでいたら不意に話しかけられる。


「なに?」

「俺、ソフィアの刺繍した物が欲しいんだけど」

「いいよ。何が欲しいの?」


軽く返事をすると、ラファエルが目を見開いた。

………え、なんで……


「どうして驚くの…?」

「………今までくれなかったから、ソフィアは人に刺繍贈るの嫌なのかと思ってた……」


………そういえば……

私はラファエルに贈ったことがないのに気づく。

というか、誰にも贈ったことがない。


「無意識だった……」

「そうなの?」

「うん。別に贈るのは問題ないよ。そもそも贈るって発想がなかっただけで……」


誰かに刺繍して贈るなんて今まで考えもしなかった。

前(前世)の私も贈り物って言ったら購入品だったし。

ラファエルにプレゼントって考えたときも、店の利益を受け取ったお金で何か買う、と思っていた。

そうか。

今の私の得意な物は刺繍だ。

刺繍をしてラファエルに贈るのも立派なプレゼントになり得るのだと。

そういえば令嬢からの贈り物として刺繍は定番。

婚約者に贈る物の一つとして上げられる。

盲点だったわ……


「ごめんね…」

「いや、いいよ。くれるんでしょ?」


ラファエルがニコッと笑う。

私も笑って立ち上がろうとしたけど、それを止められる。


「ちょっと。ソフィアは歩いちゃダメでしょ」

「あ……」


ついいつもの癖で……

ラファエルが刺繍道具を取りに行ってくれる。


「もう出来てるものじゃなくて、作った方が良いよね?」


棚にしまってある物も結構ある。


「うん。俺を想って刺繍してくれたのが良い」


道具を持ってきながら笑うラファエルに、私は顔を赤くする。

………こっちに来てから刺繍した物は、全部ラファエルを思い浮かべながら刺した物ばかりだと、私は思い出してしまったから。

なんか恥ずかしい…

絶対に気づかれないようにしないと……


「………もしかして、全部俺を想って刺してた?」

「ひぇ!? そ、そんな事――!」


思わず強く否定しようとして途中で止まった。

否定したら誰のために刺したんだって言われるかもしれない。

でも肯定したらラファエルの抱きつきが待っていそうで。

固まってしまう。


「そう」


刺繍道具を机に置いたかと思えば、妙にニコニコして元の位置に座るラファエル。

………もう、バレてます。

そんな鋭さ要らない……


「な、何が良いの!?」


恥ずかしすぎて急いで道具に手を伸ばす。

机の下に布を収納しているからどんな物でもドンとこい!!

意気込んで、恥ずかしさを忘れようとした。


「ハンカチ」

「………ぇ……」

「ハンカチが良い」

「………ぁ、ぅん…」


拍子抜けしてしまった。

定番過ぎて。

無理難題言われるのを覚悟してたのに。


「柄は任せるよ」

「え?」

「ソフィアが刺した物なら何でも」


………それが一番困るんだけど……

困った顔になってしまったのに気づいたのか、ラファエルが少し考える素振りをした。


「じゃあ、コチョウランかアイビーで」


………ぁ~、うん。

予想通りというか……


「国紋でも良いよ」

「ランドルフ国紋を刺繍させようとしないで」


出来ないことはないけど、なんていうか……畏れ多い…?

今の私は刺す自信がない。

大人しく希望の花にしておきます……

………愛の花を……

ぅぅ……恥ずかしい…


「ぬ、布の色は何色が良いの?」

「そうだな……黒が良いな」

「………黒?」


ハンカチと言えば白や薄い色が一般的。

濃い色のハンカチを使っている人はごく稀なのに。


「俺とソフィアの共通点」

「………ぁ…」


二人とも黒髪。

私は笑って黒い布を手に取った。


「大きさはどれぐらいが良いの?」

「内ポケットに入るぐらいがいいかな」


ラファエルが羽織っている上着に手をかけ、見せてくれる。

日本のジャケットみたいに内ポケットがあった。

男性の上着の内側を見るのは初めてだ。


「結構深いんだね?」

「武器入れることもあるからね」

「………サラリと言わないでくれる?」


物騒な言葉が……

まぁ、入るとしてもせいぜい果物ナイフぐらいの深さなんだけど…

短剣は辛うじて入らないだろう、的な…?


「………かなり大きいハンカチになるから、普通のポケットに入れるようにして…」


困った風に笑うと、ラファエルが声を上げて笑った。

………やっぱりちょっとからかわれたみたい。


「冗談だよ。普通のサイズで良いよ」


むぅっと頬を膨らませると、ごめんと笑って頬を撫でられる。

擽ったくて身を捩る。

頬が少し熱い。

顔が少し赤くなっているかもしれない。

………ぅ~……いい加減ラファエルに触れられても平気になりたいんだけど……

黒い布を適当な大きさになるようにし、針に糸を通した。

………刺している間、満面の笑みのラファエルに眺められてて、かなり時間がかかりそうです……

私は諦めて、ゆっくりと刺繍を始めて行くのだった。


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