第482話 私の仕事は――
「あれ? ソフィーだけ?」
相変わらずノックもなしに入ってくるお兄様。
その後にラファエルが続く。
あれから数時間後。
暇を持て余していた私は刺繍をして時間を潰していた。
部屋にはソフィーだけが残って控えてくれている。
みんなは手分けして私の指示実行中だ。
「色々お使いを頼みましたから。ソフィーはもちろん、影も上にいますよ」
影は誰1人向かわせてない。
表組が街で探索した後、裏組がその情報を元に家の中の様子を伺ってもらう予定だ。
余所行きとの態度が違う人もいるしね。
勿論その時には精霊達にも協力してもらう予定だ。
街組は直接話が出来る人選の方が良い。
「ソフィア、その気持ち悪い話し方止めて」
「失礼すぎますお兄様!!」
確かにパーティーの余韻でラファエルとお兄様を見たら、反射的に敬語になっちゃったけども。
「もっといたいんだけどね。あっちで公爵裁かないといけないから帰るよ」
「あら……子息はいいの?」
「それはラファエル殿に任せた。彼らももっと自覚を持つべきだしね」
………デビュー前の子供にも容赦ないな…
「ソフィア」
「ん?」
「子供相手に容赦ないと思っているだろうけれど」
………お兄様までエスパーか。
「あの年頃には、俺もソフィアも国の歴史や規約は勿論、王族としての立ち振る舞いは完璧だったからね」
「え……」
「貴族の家に生まれたからには、ソフィアが考えた事は全て許されることじゃないから」
「………」
「ましてや王の血筋に当たる家の者が、直系にありえないことしたんだよ」
「………そう、ですね」
お兄様の鋭い視線に、私は気まずく、けれど逸らせなくていたたまれない。
私が甘かったです…
「本来ならこっちで裁くんだけど、まずはランドルフ国で犯した非礼をきちんと清算させなきゃいけないからね」
「はい……」
「だからね、ソフィア」
「は、はい……?」
ズイッと顔を近づけられ、ガチガチに固まった身体は言うことを聞かず、ポロッと持っていた刺繍用の布と針が手から滑り落ちた。
「ラファエル殿が下した罰を全うし終えた後、仕事するように」
「………ぇ……」
お兄様に言われた言葉が分からず、乾いた声が出た。
仕事……仕事?
私の仕事って…
固まってしまった私に、お兄様はため息をついた。
そしてポケットから何かを取り出して私に見せる。
「―――ぁ!」
目にした途端にハッとした。
そ、そう、でした……!!
「………ったく……何のために……」
額に手をつけ、ため息をつかれてしまった……
す、すみません…
「ソフィア。君の仕事は?」
「ランドルフ国で罪を犯したサンチェス国の者を裁くことです」
「ちゃんと分かっているようで嬉しいよ」
ニッコリ笑うお兄様。
嫌みか!!
今の今まで忘れてた私に対して、さっきまで呆れてたじゃないの!!
お兄様に王家規約執行権限証である懐中時計を見せられて、ようやく思い出した私ですよ!!
本当にすみませんでした!!
「公爵の処分が決まり次第連絡するよ。それを受けて決めてもいいし、まぁソフィアの手腕を見せてもらう意味でも、相談なしでまずはやってみな」
「え……!?」
なんか無茶振り来た!?
「そんな……! 私、ちゃんと裁けるか――!」
途中でお兄様に言葉を封じられた。
人差し指で唇を押されて。
「まずはやってみな。それがないと始まらないよ。それとも――そんなものなの? ソフィアが王妃になる覚悟は」
「―――――っ!?」
「ラファエル殿と結婚したと同時に、ラファエル殿は王を公に裁き、罪人として国民の前で引きずり下ろして王の座に座る」
………言い方……
「そしてソフィアは王妃の座に。ランドルフ国を背負い、更にサンチェス国との縁も切れずに、両国の国民を見て、育て、罪を裁き、ありとあらゆる事を背負わないといけないソフィアは今、「ちゃんと裁けるかどうか分からない」と、狼狽えてるだけでいいの?」
「………」
お兄様に未だ口を封じられているため、フルッと少し首を横に振った。
「だよね。じゃあやれるね。さぁ、ソフィアに会ったし俺は帰るよ」
「え……!?」
突然来て、そして突然帰って行くお兄様。
………いやいやいやいや!!
一瞬呆けて、ハッとして慌てて追いかけるも、扉の向こうにはもうお兄様の姿はなかった。
「………早っ!!」
あ、嵐のようだった……
「………レオポルド殿。何気に俺のソフィアに手を出して……」
「………は!?」
真後ろから声が聞こえて、その内容が理解できずに振り返った。
ラファエルが私の背中に貼り付くようにして立っている。
………近いよ!?
0距離はやめて!?
ってか、手を出すって何だ!?
「ソフィアの唇に触れていいのは俺だけなのに」
そう言って唇を奪われた。
………ぁ、そういう意味で…
………って!!
みんな言い方もうちょっと考えて!?
その言葉を言えるのは、ラファエルが満足して私の唇が解放されてからになったため、かなり後のこととなった。




