第479話 社交パーティー③
上座に戻ってきたお兄様はローズをエスコートしながらも、それはそれは良い笑顔だった。
会場の端で負のオーラを纏っているカイ・メンセー。
………ご愁傷様です。
おそらく彼の退去書類にもメンセー国の王が玉璽を押しているだろう。
これで彼の継承権は永久になくなったといえる。
なりふり構わずもいいけれども、立場をわきまえようね。
「そういえばラファエル殿」
「なに?」
「1回踊ったっきりでいいの? せっかくソフィアがラファエル殿の為におめかししてるのに」
そう言ってお兄様が私を見る。
続いてラファエルも。
2人に注目され、肩が揺れる。
「婚約者なんだから2回踊れるでしょ。もう1回踊ってきたら?」
余計なことを言わなくていいよお兄様!!
「そうなんだけど、こんなに綺麗なソフィアをまたあの中で、生徒の近くで見せたくないんだよねぇ…」
………ラファエル…嫌そうな顔しないで…
「あははっ。やっぱりラファエル殿はソフィア溺愛だねぇ」
「やっと手に入れたんだよ? この腕の中でずっと囲っていたいよ」
………それはやめて……恥ずかしい…
「ソフィアの侍女達ももっと考えて欲しいよね。ソフィアを綺麗にすればするほど、余計な虫が寄ってくるんだから。いつもソフィアは綺麗なんだから普段もヤキモキしてるのに」
「ははっ」
だから、ラファエルの美的センス!!
「ソフィアに1番似合うドレスを仕立てたけど、それも失敗したと後悔してるし」
「え……」
「余計にソフィアに虫が寄ってくる…!!」
悔しそうな顔をしないで!!
せっかくラファエルの隣に立てる格好に、化粧をしているのに、ラファエルに否定されると心ズタズタになるよ!!
ラファエルにどう言ったらいいのだろうか…!
………ぁ!!
「わたくしにはよく効く虫除けがありますから大丈夫ですわ」
「………虫除け?」
キョトンとラファエルが首を傾げる。
………可愛いな!!
「あら。わたくしと共にいて、虫除けになってくれませんの?」
ニッコリ笑顔を作りながらラファエルを見ると、最初は意味が分からず戸惑っていたようだけれど。
「ああ。確かにラファエル殿がいれば虫除けになるよね」
「………あ、私か」
お兄様の言葉に腑に落ちたようだ。
「そうだね。私がずっとソフィアの隣にいるもんね」
「はい」
理解してくれたようでなによりだ。
何かあってもラファエルが隣にいるのであれば、上手く躱してくれるだろう。
声をかけてこようとしても、牽制してくれるだろうし。
「じゃあソフィア。もう1回踊る?」
「え……」
その言葉には頬がヒクついてしまった。
久しぶりに公な場で踊って、踊りきって、今は気が抜けてしまっている。
固まってしまった私を見てラファエルが苦笑する。
「だよね。このままゆっくりしよう」
そこは理解してくれていたのか。
ホッと私は息を吐いた。
「私もここで綺麗な華を愛でていたいしね。唯一無二の華を」
「ら、ラファエル様っ!」
不意打ちの言葉にカッとまた赤くなってしまう。
「ふふっ。可愛い私のソフィア。口づけていい?」
「だ、ダメですっ」
顔を近づけてくるラファエルの胸を押しながら、私は抵抗した。
こんな公の場所でそんな羞恥プレイ望んでませんから!
そんなことは一生に1度のイベントだけでいいですから!!
「仲良いことはいいよね」
煽った本人、のほほんと眺めてないで、助けなさいよぉ!!
私は王女の仮面を被ったまま、悪乗りしているラファエルをどう止めようか、必死で考えていた。




