第478話 社交パーティー②
ラファエルと悠々と上座で談笑していると、近づいてくる人物がいた。
問題児――ごほん。
カイヨウ国王女とメンセー国王子だ。
「ラファエル様、わたくしと踊って下さいませ」
ユーリア・カイヨウ、懲りないな…
「有り難いお誘いですが、お断りさせて頂きます」
ニッコリ笑ったラファエルが、バッサリ切った。
笑顔が怖いでーす。
「な、何故ですの…?」
本気で分からない顔をしない。
確かに交流パーティーだからパートナー以外と1度は踊る事は出来る。
けれどもユーリア・カイヨウは私に対して色々しすぎた。
それをラファエルが許すとは考えられない。
自惚れと言われると思うけれども、ラファエルは私のこと溺愛しているから。
………自分で言ってて恥ずかしいな!!
「そろそろ自覚して欲しいな」
ニッコリと笑ったままのラファエルの言葉が、何故か会場に響いた。
それ程大きな声ではなく、普通に話しているのに。
不思議に思って視線だけで見渡すと、いつの間にか会場中の視線がこちらに向いており、音楽も止まっていた。
「私の大切なソフィア・サンチェス王女を散々侮辱しておいて、よく私をダンスに誘えますね」
ユーリア・カイヨウの顔色が変わる。
ついでにカイ・メンセーの顔色も。
彼の表情で分かっていたけれど、彼も私を誘おうとしていたようだし。
最後の悪あがきで、支援という名のアイデア出しを、ダンス中に願おうとしていたのだろう。
「わ、わたくしは、ソフィア様を侮辱してなど…!!」
「してましたよ。今日で貴女はこのランドルフ国から出ていってもらうことになっておりますし」
「え……」
彼女が目を見開いた。
私も聞いてなかったのでラファエルを見る。
長期休みの前半に片付けるってさっき言ってなかった……?
「貴女が大人しくパーティーが終えるまでいるのでしたら、数日の猶予を与えるつもりだったんですがね」
ラファエルが懐から書類を取り出した。
………何で持ってるの…
少し呆れた顔をしてしまった私に、ラファエルが気付いて困った顔をする。
「こんな事もあるかもしれないと思って、持ってきてたんだ」
………そうですか…
「ユーリア・カイヨウ。ランドルフ国王マテウス・ランドルフ、及びカイヨウ国王の名の下に、ランドルフ国から即刻退去するように」
ラファエルが広げた書類には、ランドルフ国王のみが押せる玉璽と、カイヨウ国王のみが押せる玉璽がしっかりと押されていた。
………マテウス・ランドルフって……ランドルフ国王は今幽閉中じゃ…
そう思ったところでルイスの顔が浮かんだ。
そういえば今はルイスが影武者で国王やってるんだっけ?
全然そんな場面見ないけど。
公にもなってないし、マテウス・ランドルフが今も王宮の奥で仕事してると大半は信じて疑ってないだろう。
勘が良い人はラファエルだと分かっているだろうけれど。
実際はラファエルが署名と捺印したんだろうな…
正式な書類を見て、ユーリア・カイヨウの顔色がなくなった。
震えて今にもその場に倒れそうだ。
「………以後、この国への立ち入りも禁ずる。今この国の国境はソフィア・サンチェス王女の案でより精密化されてる。入ろうと思っても無理だろうね」
今度こそ彼女はその場に座り込んでしまった。
スッとラファエルが手を振ると、会場の入り口で警備していた学園警備に配属されている騎士が動いた。
そしてユーリア・カイヨウを連れて出て行く。
「………で? 君の用件は何かな?」
ニッコリ笑ってカイ・メンセーを見るラファエルが怖いなぁ。
「………ぜ、前回ご迷惑をおかけした謝罪をしに」
真っ青な顔色になって、その場に膝をついた彼。
彼女の二の舞にはならないように、私を誘うことは断念し謝罪に転じたのだろう。
「そう。そういう無粋なことをこの楽しむ場所で言う必要ないよ。パーティー楽しんでね」
胸元に伸びていたラファエルの手が、肘掛けに戻った。
………彼のもあったんだ…
「はい、失礼します」
震える声でそれ以上言わず、そっと立ち去って行った。
「………いいの? ラファエル」
「レオポルド殿の分、いてもらわなきゃいけないしね」
………ぁ、そういう……
音楽が戻った会場を見渡すと、お兄様がスッと動いていた。
心の中で合掌した。
「カイ・メンセーが無事でありますように……」
「ふふっ」
「え?」
ラファエルが笑ったので私は見上げる。
「カイ・メンセーの無事を祈るのは、レオポルド殿が手を染めないようにってことでしょ?」
「それ以外に何があるの?」
「ないね」
笑ってるラファエルをキョトンと見ていると、引き寄せられて額に口づけられた。
それを見ていた令嬢たちが歓声(一部悲鳴)を上げる。
カァッと一気に真っ赤になった私を、満足そうにラファエルは見ていた。




