第475話 煽るのは止めてください
「あらソフィア。今日は引く手数多になりそうですわね」
王宮の出入り口。
馬車が用意されており、その前にローズとルイスが立っていた。
ローズはルイスから贈られていたドレスを身に纏い、いつも美人がもっと美人になっていた。
ルイスにエスコートされ、ニッコリと笑っている。
「おはようローズ。変なこと言わないで。私に声をかける勇気ある人いないわよ」
フィーアにメイクされた顔を見たおかげで、自分に自信が持てている。
今の私は卑屈になる要素がない。
凄い…この私が自信を持って、ラファエルの隣に立てる日が来ると思わなかった。
………でもね…
ローズに言われた言葉だけで、隣から殺気がきている!!
「………やっぱりソフィア、今日は引きこもって――」
「致しません!!」
抱きしめたらドレスが着崩れることが分かっているためか、ラファエルが抱きついてこないけれども。
出ている殺気をしまって下さい!!
「あ~嫌だ。俺のソフィアがもっとモテてしまう。いつも可愛いし綺麗なのに、今日は綺麗が過ぎる」
………綺麗が過ぎる、って何だ…
今の私は否定しませんけれども、普段は普通ですから、普通。
ラファエルの美的感覚がいつも可笑しい…
今度フィーアに化粧の仕方を教えてもらおう!
いつもしてたら自信になるよね!
『姫様、王女はご自分で化粧しません』
………おっと。
今ソフィーに心を読まれてるのか…
『いえ、姫様の表情を読みました』
エスパーか!!
入り口通路で見送り体勢の従者の列をチラリと見るが、ソフィーはこちらを見ていない。
………ホント怖いよ。
「そうですわね。ソフィアは今日モテモテでしょうね」
「ソフィアに声をかけてくる連中、斬っていい?」
「いい笑顔で何言っちゃってるの!?」
こっちはこっちで怖いよ!!
ローズ、ラファエルを煽らないで!!
「私はラファエル以外に見向きしないよ!!」
「おお。ソフィアも言うようになったね」
何故か正装したお兄様が馬車の中から笑顔で声かけてくる。
「………お兄様が何故そこに?」
その馬車は私とラファエルが乗るはずのものでは?
「ラファエル殿に誘われて、俺も参加することになったから、急いで服持ってきてもらったんだ」
こちらも良い笑顔で何言っちゃってるの!?
「聞いてませんが!?」
「言ってないもの」
何故お兄様が得意げな顔をしてるのよ!!
「メンセー国王子がまだ学園に居るっていうじゃない。勝手に俺の名前出されてソフィア騙そうとしたこと、ちょっと釘刺しておこうと思ってね」
………あ、こっちも怖い…
これはあれか…
温泉での聞こえなくなった会話の中でやり取りがあったのかも…
「まぁ……でしたらレオポルド様にエスコート頼めばよかったですわ」
傍観していたローズが頬に手を当てて首を傾げる。
ローズのパートナーには影一が選ばれていた。
「それでも構いませんよ。私はどちらでも」
控えていた影一がすかさず答えた。
まぁ、影一は私の影だから、パートナーじゃない方が護衛しやすいわよね。
「そう? じゃあ可愛い義妹のパートナー役を俺が務めさせてもらうよ」
クスクス笑ってお兄様が馬車から降りてきて、ルイスの手から自分の手へと、ローズの手を移動するよう手を差し出した。
「ありがとうございます」
ローズは素直にお兄様の手に自分の手を委ねた。
そのやり取りはスムーズで、私以上にお兄様の兄妹かもしれないと、ちょっと思った。
「………行きたくない」
「我が儘言わないでよラファエル。ほら、行くよ」
馬車にラファエルを押し込むと、渋々ながら中から手を差し出してくれて、私は助けてもらいながら馬車へと乗り込んだ。
「………本当に行くの?」
「行くわよ。もう駄々こねないで!」
「………行ってくる。ルイス、留守を頼む」
「畏まりました」
ルイスと従者達に見送られながら、私とラファエル、お兄様とローズ、それぞれを乗せた馬車が学園へと向かった。
「ソフィア…」
「何?」
眉を潜めて正面からジッと見つめられ、嫌な予感がするけれどもラファエルを見つめる。
「………口づけたい」
思わず椅子から落ちそうになった。
………悲痛な顔で言う言葉じゃない…
「………でも綺麗にしてるのに崩れちゃうよね……」
重苦しい息を吐き出すラファエルに苦笑するしかない。
「………いいよ」
「いいの!?」
素早く私の隣に移動してくるラファエル。
精霊に維持してもらっているから、紅も崩れないでしょう。
………そういえば……いつ以来だろう…
最近ラファエルとキスしてないな……って!
私何考えてるの!!
顔が赤くなりそうで、急いで無心になるように――
「………ぁぁ、ソフィアと口づけ久しぶりだなぁ…」
………しみじみと言わないで下さい!!
そんな文句の言葉は、ラファエルの唇に遮られた。




