第474話 ドキドキは損でした
「うぐっ……!」
「もう少し辛抱して下さい」
ぎゅうぎゅうとコルセットに身体を締め付けられ、私は唸っていた。
容赦なく締められ、意識が飛んでいきそうだ。
「終わりました!」
「次はドレスですね!」
バタバタと侍女達が走り回る。
今日は学園の学期終了日。
長期休暇が明日から始まる。
その前に学園でパーティーだ。
授業がなく行ったら即パーティーで、踊って、話して、午前中で解散だ。
………そういえば、ラファエルの挨拶はあるのだろうか?
「姫様失礼します」
考え事をしている間に侍女が着付けてくれる。
ぽっこりお腹はなんとか今日までに元に戻せた。
ドレスがすんなりと私の身体を覆う。
ラファエルが用意したあの互いの色になっているドレスだ。
コルセットのおかげで私のない胸があるように見える。
………ぅぅん……詐欺だな、これは……
サンチェス国のドレスはここまで盛ってなかったから、偽物に見えてしまう。
髪はアップにされ、ラファエルが贈ってくれた髪飾りに首飾りに、と私が豪華にされていく。
王族の務めだとしても、こんな豪華なもの、ランドルフ国民に悪いな…
「出来ました」
ソフィーが鏡を持ってくる。
姿見に映った私の姿は…
「うわぁ……王女がいる…」
「「「姫様は元々王女様ですが」」」
思わず呟いた言葉に全員に突っ込まれてしまった。
………ですよね。
そこに映っていたのは、間違いなく私で。
でも、綺麗だった。
どういう技術を使ったかは知らないけれど、普通だった私の顔が、綺麗にメイクされて別人のような私がそこにいた。
目は大きくなり、唇はピンク色、鼻立ちもスッキリし、ハッキリした顔だちになっていた。
「ちょ、ちょちょちょっと!? な、何したの!?」
今まで化粧してもこんなに綺麗にならなかったのに!
背伸びした感じが抜けなかったあのメイクじゃない。
残念に見えるメイクじゃない。
普通に…
「………普通に綺麗……ソフィーみたい…」
重苦しい感じの黒の髪色でも、違和感がまるでない…
「薬草で化粧品などを密かに開発しておりました。間に合ってよかったです」
フィーアの手元には、彼女が作ったのだろう化粧品と思われるものが、ズラリと並んでいた。
「あ、ありがとう…」
「いいえ。姫様が自信がないのは、お顔立ちのせいもあるのではと思いまして。わたくし達には魅力的に見えても、姫様自身がご納得致しませんと何を言われても否定しますでしょう?」
グサッとフィーアの言葉がダイレクトに胸に刺さった。
よ、よく分かっていらっしゃる…
「自信を持ってラファエル様と目立ってきて下さいませ。自信は、ご自分を信じることですよ」
「………そう、だね」
フィーアのおかげで私は堂々とパーティーに出ることが出来る。
自然に口角が上がっていく。
「本当に、ありがとう」
「これらは肌に優しくなるよう作りましたので、後日の肌荒れなどは大丈夫だと思います」
フィーアの気遣いに心が温かくなる。
彼女の薬の知識なら、大丈夫だろう。
「精霊に維持してもらえば、化粧崩れはしないでしょう」
「………精霊の力の使い方、間違ってると思うけど…」
「学園に侍女は入れませんからね。化粧が崩れても直せませんから」
「そう、ね……」
このメイク崩れたら絶対に大変なことになるわ…
心苦しいけれど、私は精霊にお願いしたのだった…
「入るよソフィア」
ガチャッと返事を待たずに入ってくるのは、当然ラファエルだ。
「ちょ、返事を待ってよ!」
「………」
「………ラファエル?」
文句を言いながらラファエルを見たけれど、ラファエルが固まっている。
どうしたんだろう?
近づいて、改めてラファエルを見上げるけれど、反応がない。
ラファエルは私の色の正装で、滅茶苦茶格好いいっ!!
紫似合うんだラファエル!
会場で彼の隣に立つ私を想像して、胸が高鳴る。
………って、未だにラファエルが動かない…
「ラファエル?」
「………っぁ……そ、ソフィア?」
「他に誰がいるの? このドレス着られるのは私だけ、でしょ?」
ラファエルから贈られるドレスを着られるのは、私だけじゃないと泣くけど。
「………いつも綺麗だけど、今日は一段と綺麗だよソフィア」
とろけるような笑みで言われ、私の体温が一気に上がった。
絶対に顔は真っ赤だろう。
「頭からつま先まで全部俺の色だ」
「 」
パクパクと、まるで金魚みたいに口を開く閉じるを繰り返してしまう。
こ、言葉が見つからないよぉ!!
「ソフィア」
「ぁ……な、に?」
急に真面目な顔になってラファエルが見つめてくる。
更にドキドキして息が出来なくなってくるよっ!
も、もしかしてキスされるのかな!?
何度もしてるのに、まるで初めてするような気になってしまう。
は、恥ずかしいっ!!
「パーティー行かずに俺とここで籠もっていよう」
………真顔で何言ってるのこの人。
私の手を取って、絶対に本気だろうと分かる声色で言わないで。
「そんな事出来るわけないでしょー!?」
思わず叫んでしまった私の声が部屋に響いた。
私のドキドキを返してー!!




