第47話 突然追い出されました
『ソフィア様、お願いがあるのですが』
ルイスが本日朝一番に私に言った言葉がこれだ。
そして――
「くっそ…ルイスのヤツ……」
私は王族の装いから貴族の装いに変更し、同じく貴族の服を着ている機嫌が悪いラファエルの横に立っていた。
現在私達は王宮から追い出されて、城下街の入り口まで来さされていた。
『ラファエルは働き過ぎています。一日連れ回して休暇を取らせて下さい。王宮にいればあいつは仕事をしてしまいますから』
………って言われてもね……
チラッとラファエルを見る。
「………」
………顔が怖い。
ラファエルの機嫌を取るのが先なんですけど……
これちょっと……難問なんですけど…
「はぁ。いくぞソフィア」
「え、あ、うん…」
スタスタと歩いて行くラファエルを小走りで追いかける。
令嬢である私の足は、数十メートルで早くも疲れを感じ始めてしまう。
ほんと軟弱で嫌になる。
ダンス踊れるんだから、これぐらいで疲れてどうするのよ。
パシッと自分で太ももを叩いて、ラファエルを追う。
暫くしてふと気づく。
いつもラファエルと歩く時は、こんな疲れなど感じていなかった。
………ぁぁ、私は気づいていなかったんだ……
ラファエルが私に気づかせずに、私の歩く速度に合わせていただなんて……
短い期間じゃなかった。
婚約して四月になるというのに。
私はそんな些細なラファエルの気遣いさえ気づかない。
………ほんと、私はこの手のことに関しては鈍感すぎる。
「……っ!」
小走りしていた私の足が少しツった。
ピリッと電気が走ったようだった。
この軟弱の体が嫌になる。
………そう思うのは早くも二度目だ。
ラファエルの歩く速度にも追いつけない。
なんだかそれは仕事に関しての距離にも思えてしまう。
何をやってもラファエルの手助けにならない、自分自身では何もできない、遙か高みにいて手が届かない人なんだと…
………って!
追いつけないだけで何で仕事のことにも繋げてしまうのよ私の頭は!!
今日はラファエルもだけど、私も休暇!!
ラファエルの事だけ考えて、仕事抜き!!
「ぁっ!?」
余計なことを考えた天罰なのだろうか。
足下にあった石に躓いた。
小石ではない。
男の人の拳ぐらいの大きさの石。
なんで気づかないのよ私は!!
「ソフィア!!」
私の声に気づいて、ラファエルがハッと後ろを振り向いた。
ここで漫画とかゲームとかなら、優しく抱きとめられるんだろうな。
現実にそんな場面はない。
あり得ない。
私はドベシャと転んだ。
一瞬全ての音が消えた。
………うん、恥ずかしいです……
ラファエルが慌てて駆け寄ってくる音がする。
「………痛い……」
軟弱な体にダイレクトに痛みが走った。
全身に。
辛うじて顔は死守した。
これでも、普通の顔でも、一応女ですから。
でも手とか足は擦りむいた。
ジンジンする手をつきながら体を起こす。
その時にラファエルが私の所に来てくれた。
どれだけ離されてるの私……
やっぱり運動しよう……うん…
「ソフィア大丈夫!? ごめん! ソフィアを一人にしてしまうなんて! 本当にごめん! ぁぁ、怪我してる! 俺がいながらソフィアに怪我させるなんて! ごめん! 痛いよな! ごめん!」
………めっちゃ謝られてる……
いや、これは私の軟弱な足のせいであって、ラファエルのせいじゃないよ…
そう言いたいのに、ラファエルが早口で焦りながら一人で騒いでるから、何も言えない……
テンパっている人見ると、なんで逆に自分は凄く冷静になれるのだろうか……
不思議だよね…
地面に座って焦っているラファエルを眺めていると、ラファエルが腕を伸ばしてきて私は抱き上げられた。
………って……ええ!?
「ちょ、ラファエル!?」
顔が赤くなるから止めて!!
「治療しないとソフィアの体に傷が残ってしまう!!」
「お、大袈裟だよ! こ、こんな傷舐めておけば治るよ!」
「王女が何言ってるの!?」
「あ、すみません…」
………そういえば私、王女でした。
はい、大袈裟……というか…大事になりますよね…
「戻るぞ!」
「え、でも…」
「ソフィアが怪我してるのに、王宮入城禁止とかないでしょ!!」
こうして私達はとんぼ返りすることになった。
………ホント、ごめんなさい…
門番が私の傷を見て真っ青になるわ、侍女達は焦って医者呼びに行くわ、医者は震える手で治療するわ。
………散々でした。




