第461話 立場が違う
「ソフィア様」
ディエルゴ公爵がランドルフ国に来国して一晩明けた翌日。
学園に行く準備をして、出かけようとしていた矢先だった。
ヒューバートが入室してきて頭を下げた。
………こういう時に名を呼ばれるということは、私の今日の学園の時間はなし、かな…
「何?」
「囚人2人がソフィア様との面会希望しております」
………囚人って…
2人ということは、あの子供達だろう。
「………罪人の希望に添って、面会するなんて……それがランドルフ国のやり方なの?」
「いいえ。希望は通すことはあまりありません」
………あまり、ということは、なしではないんだ…
「王家の許可があれば、面会希望が通ることがありますので」
私は思わず天を仰いだ。
ということは、ラファエルの許可が出たのか…
………まぁ、子供相手だし…
いや、ラファエルは相手が幼くても容赦ないから、きっと何かあったのだろう。
ディエルゴ公爵の相手は任せているし、私は子供の相手をするのも道理かもしれない。
「………分かったわ。案内して。3人共付いてきて」
「「「はい」」」
騎士全員を連れて行く。
何かあってからでは遅いから。
部屋を出てヒューバートの案内で地下牢へと向かう。
………何気に2回目だった。
地下とあってジメッとした薄暗い通路を歩き、ヒューバートが1つの扉の前で止まった。
鉄で出来ているだろう重い扉をヒューバートが開くと、日本でいう面会室と似た感じの部屋が現れた。
部屋の真ん中にガラスがあり、簡易的な机と椅子が対面式で置いてあった。
………ここは初めてだ。
レオナルドの時は鉄格子越しだったから。
『開きます』
どこからか機械の声が聞こえたと思えば、向こう側にあった扉が自然に開いた。
そして姿を現したのは、手を手錠で繋がれた子供が2人入室してきた。
「ソフィア従姉様!!」
「良かった!!」
何故か2人は満面の笑みで私を見る。
「………」
私は取りあえず目の前にあった椅子に座る。
騎士達は二手に分かれて壁際に並んだ。
「あのさぁ――」
笑顔で話しかけてくる子供達を、視線で黙らせた。
………まずは……
「わたくしは、貴方達が気安く話しかけられるような身分の者ではありません」
「え……」
「何を…」
戸惑う子供達に更に言葉を投げつける。
「わたくしはサンチェス国王女であり、この国の王太子であるラファエル・ランドルフ様の婚約者であり、次期ランドルフ国王妃になるのです。このわたくしの身分を承知の上で、貴方達は気軽に話しかけられるサンチェス国王家の者なのですか」
無表情で言い放つと、2人が息を飲んで黙り込んだ。
「貴方達はわたくしにも、ラファエル様にも気安く話しかけておりましたわね。不敬罪が既に確定している中で、まだ罪を犯しますか」
「………そ、れは……」
「更にわたくしを呼びつけるなど、王か王太子でない限り、許されることではないことです。サンチェス国公爵家の者が、そんなことも分かっていないなど、わたくしは恥ずかしくて仕方がありませんわ」
私の言葉に2人は俯いてしまう。
「社交デビューがまだであろうとも、知っておかなければならない常識です。そんなことも教えてもらっていないのですか。ディエルゴ公爵も落ちぶれたものですわね」
「ち、父上をバカにするな!!」
バンッとガラス壁を叩いてくる。
「ローム!! 止めろ!!」
「でも!!」
「今回は俺達が全面的に悪い!! ソフィア従姉様――いや、ソフィア様にしていいことではなかった。何もかもが…」
「………」
「………ソフィア様。この度は勘違いで責め立ててしまい、申し訳ございませんでした」
きちんとした礼で謝罪するローグ。
………謝罪のために呼ばれたのか。
多分ラファエルは、子供達に常識を突きつける為に私を寄越したのだろうと、そう思っていたんだけれど。
「………話は以上ですか?」
「っ…!」
「このっ!」
「だから止めろって言ってるだろローム!!」
「っ……」
私はゆっくりと立ち上がった。
「わたくしよりラファエル様に謝罪なさい。わたくしはわたくしの国の民が罪を犯した瞬間に、ラファエル様にどうこう言える立場ではなくなりましたから」
言外にお前達のせいだと言えば、2人が真っ青になった。
私はそのまま退室した。
まだまだ反省が足りないとため息を吐きながら、その場を後にしたのだった。




