第46話 閃きは意図せず出てくる物です
ラファエルが提案した甘味を配るという件は、国民全てに渡る数を作るのは一朝一夕には出来ない。
ということで、何処から配っていくかという会議中。
机に広げた地図を覗き込みながら、ラファエルとルイスが話し合っている。
私は椅子に座って二人の話を聞きながら、地図を眺めていたのだけど…
「………ん?」
ある一点を見て、思わず首を傾げてしまった。
「どうしたのソフィア」
それにすぐ反応して私を見てくるラファエル。
「………ぁ、うん。ここって何?」
私は地図の一部分を指さした。
そこには赤く×印が書かれてあったのだ。
「ああ、そこは立ち入り禁止区域だよ」
「どうして?」
「この奥に火を吹く山があってね、その手前に大きな湖があるんだけど、熱湯でとてもじゃないけど熱気が凄すぎてそこから人は入れないんだ」
………
………………
………………………
それって、火山では。
そして、熱湯湖って、温泉の源泉じゃぁ……
どうして万年冬の国の近くに火山地帯があるの。
地図をガン見するけど、確かにランドルフ国内の場所だった。
まぁ、突っ込みたいけど、それは後回しにして…
「ねぇ」
「ん?」
「その熱湯、地下にパイプ這わせて国中に張り巡らせられないの?」
「「………………」」
私の言葉に二人が固まった。
「そうすれば地中から熱が地上に上がってきて、この国の寒さが少しでも改善されるだろうし。それに薪を使用する頻度が下がれば国民の懐も少しは潤うだろうし。それに温度が上がれば育つ植物も変わってくると思うし、もしかしたら食べ物育てられるかも……。それと、その熱湯冷ます機械でも開発されれば王宮とかで使っているお湯も節約できるんじゃないの? タダでお湯が手に入るのならその分お金浮くよ」
日本の温泉を思い浮かべながら、私はペラペラ喋ってしまった。
「まぁそんな技術出来るならお風呂と宿一緒にして観光地になれば他国からの入国が増えて、この国にお金を落としてくれるとか思うけど、流石にランドルフ国に娯楽施設とか有名な物品とか作ってないから、この国の人の節約ぐらいにしか役に立たないね……」
止める人がいないから口が止まらなくて、途中から無意識だった。
頬杖付きながら、日本のことを思い出しながら思いつくままに。
ふと気づく。
音が何も聞こえないことに。
「………ぁ、れ……?」
私は今なんかやらかしただろうか。
ソッと視線を上に向けると、ラファエルとルイスにガン見されてました。
「………」
やらかしたんですね。
やばっ。
「ご、ごめんなさい! そ、その…無謀なことを言っちゃったよね!? わ、忘れ――」
「ルイス!」
「すぐに開発部に連絡し、計算させます! それが終われば研究員に耐久性が優れている材料を開発してもらい、技術班に回します!」
ラファエルがルイスにまるで怒鳴るように言い、ルイスが凄い早さでメモ取ってる。
………な、なに……
っていうか、開発部って何……
初めて聞いたんだけど……
ルイスは書き終わるとすぐに走って出て行った。
………ぁ~……甘味配る打ち合わせ中断させちゃった……
「ら、ラファエル…ごめん。打ち合わせ遮っちゃって」
「何言ってるの。ソフィアのアイデアでまたこの国をよく出来そうなんだ。むしろご褒美あげたいよ」
「贅沢品お断り!!」
「分かってるよ。贈り物してまたため息つかれたくないし」
「う……」
た、ため息つきたくてついたんじゃないよ!?
それに、ご褒美もらうことじゃない。
だって、私のオリジナルじゃないから。
日本の知識で言ってるだけだから。
私だけのオリジナルアイデアだったら、喜んで貰うかもしれない。
でも、ただの既存知識を言っただけで何もしてない。
ラファエルに褒められるけど、心臓が少し痛いな。
………これは、罪悪感だろうか?
本当のことを話すわけにはいかないけれど、隠し事している事に、心が痛むのだろう。
なんて思っている時じゃないや。
先にランドルフ国の事だ。
全部終わってから――ランドルフ国が活気付いてから考えたら良い。
今はラファエルの為、民の為に、使える知識はなんでも使おう。
全て終わった後に、責められるなら甘んじて受けたらいい。
私はラファエルに笑顔を向けた。
すると心臓の軋みがなくなった。
割り切れば、開き直れば、どうって事なかった。
私が怖いのは、ラファエルに嫌われることだけ。
今向けてくれている笑顔が、蔑みに変わったら変わったときだ。
「ああ、ソフィア可愛い」
「ちょっ!? こ、ここ部屋じゃないから! 一応公共の場だから! 抱きつかないでぇ!!」
結局私のネガティブ思考は続かない。
ラファエルのおかげでシリアスは続かないのだ。
それに救われている私も確かにいる。
私は嫌がっておきながら、ラファエルの温かさに安心していたのだった。




