第459話 早すぎでは?
「た、大変だソフィア様ぁ!!」
バタンッと大きな音を立てて扉が開かれた。
流れていた演奏曲も、部屋の中にいた人物も、全てが止まった。
「………何度言えば分かるのですかアルバート」
地の這うような声で言うと、騒音を立てたアルバートが直立不動になった。
現在ダンスの練習中。
ディエルゴ兄弟が囚われて、3日経っていた。
現在処分保留。
ラファエルの采配待ちだ。
私は学園のパーティーに向けてのダンスを練習していた。
間隔もつかめるようにと、使用人達も何組か付き合ってもらっている。
貴重な時間を邪魔するようなことなんでしょうね?
またアシュトン公爵家絡みなら怒るわよ。
「すま――すみません!! ですが、あのっ…!!」
「………何ですの」
「実は――」
「無礼を承知で失礼する!」
アルバートを押しのけるようにして入室してきた長身の男。
その顔に見覚えがあった。
「………あら。来国の先触れがございませんでしたけれども?」
「先触れがされる前に、こちらに足を運んだ方が早いかと思いまして」
肩で息をしている男は、本当に急いできたのだろう事が伺えた。
良い生地で仕立てられている服は、彼の顔に似つかわしくない。
申し訳程度の防寒用のマントを羽織っている。
「………いくらこの国が暖かくなったとはいえ、その格好でこの国の気候は少し厳しいかもしれませんわよ」
「大丈夫です。寒くありません」
「今は興奮や急いでこられたことからの熱さでしょう。彼に服を用意して下さい」
私の言葉に使用人達が頭を下げて去って行く。
音楽を奏でてくれていた人達も。
………音楽プレイヤー作れないかしら…
今はそれどころではないけれど。
「アルバートはラファエル様にご報告を。手が空きましたら談話室へお越し頂いて」
「御意!」
アルバートがまた慌てて出て行く。
………ラファエルの執務室でもやらかさないかしら…
せめてジェラルドにすれば良かったかも…
「オーフェスは談話室へ彼を案内して下さいな」
「はい」
「ちょっと待って下さい! 私は――」
「焦っているのは分かりますが、まずは落ち着いて下さいませアーク・ディエルゴ公爵」
そう。
私の目の前にいるのは、サンチェス国から急いで来ただろう王弟であるアーク・ディエルゴ。
捕らえられた子供2人の父親であり、私の叔父だ。
お父様そっくりの厳つい顔。
昔は兵士隊長だったとか。
腕っ節が強いだろう事は、身体に付いた服で隠しきれていない筋肉で分かる。
今でも現役だろう。
「お子にお会いしたいでしょうが、ラファエル様の許可なくお会いすることは出来ません。ご了承下さい」
「っ! ………分かりました」
叔父様はオーフェスに連れて行かれた。
………まったく…
みんな私の邪魔をするのが好きね…
せめて長期休暇の時に来てよね…
「………ヒューバート、ジェラルド、私を部屋まで護衛宜しく…」
「畏まりました」
「はぁい」
私は2人を伴ってダンスフロアを後にした。
………それにしても、本当にすぐに飛んでくるとはね…
どれだけ子供が大事なのだろう。
ロードの時は冷静だったのに。
………年を取って生まれた子供達だからかな…?
もしや、お父様も叔父様のようになるのだろうか…?
………想像してゲッソリしてしまった。
まだ分からないから、考えるのは止めておこう…
とにかく着替えなきゃ。
ラファエルが来るなら謁見用のドレス着ておかなきゃいけないし。
ダンス用のドレスって、魅せることをメインに考えているから、重たくて仕方がない…
煌びやかだし。
本当に贅沢品だよね…
コツコツとヒール音を出しながら、私は部屋へと戻ったのだった。




