第457話 対面
私の護衛と何故かラファエルが加わり、騎士屯所へ向かった。
ドレスはサンチェス国から着てきた物のまま。
何故か私のお母様は私にピンク色の物を着せる趣味があるけれど、今回は私の色である紫を主体としたドレス。
それでもピンクは入れられてますけれどね!
私もう17になるところなのだけれども…
子供っぽい色はこれから自重してもらわなくては…
「ああ、あそこだよ」
ラファエルが指差したところには、騎士の屯所と思われる場所。
城下街の近くにあり、見回り騎士はここに滞在するのだとか。
街からは少し離れているために、私とラファエルが王族の格好をしていても、訪ねてくる民以外には見られることはないだろう。
石造りで出来た屯所は、私風に言えば簡易警察――派出所的な建物に見える。
こじんまりとしたその屯所は、入り口に騎士2人が立っている。
「ご苦労」
「ラファエル様! お声がけありがとうございます!」
2人の騎士が敬礼した。
「例の2人の子供に心当たりがあるって言うソフィアを連れてきたのだけれど、いる?」
「はっ! ご案内致します!」
1人が中へと私達を誘導する。
………これ、私の騎士呼び寄せた意味あるのかしら…
まぁ、ラファエルが単身で来るよりいいか…
どうしてラファエルは自分の護衛を放ってきてるかなぁ…
「あ、お父様!!」
「だから私は父親じゃないよ」
「あ、おばさんもい――」
最後まで言わせずに、私は鋭い視線で子供を黙らせた。
2人共息を飲んで私を見る。
彼らは屯所の椅子に座らされており、机に飲み物や菓子など散らばっている。
………ここの騎士は子供好きなのだろうか…
変に食べ物を与えないで欲しい。
彼らの足もとは綺麗になっており、裾が汚れていたのも少し改善されている。
「………貴方達は口の利き方を知らない様子。それで公爵家の者など、恥ずかしくて公言できませんわね。何か言い訳がございまして? ローグ・ディエルゴ、ローム・ディエルゴ」
「「っ!?」」
ビクッと肩を揺らして、視線を彷徨わせる2人。
それによって彼らがアーク叔父様の子だと、証明された。
そして私が放った言葉に、子供の傍にいた騎士達は一斉に離れて壁側で直立不動になった。
彼らがサンチェス国公爵家の者と知り、今まで気軽に話しかけていたのだろう者達が真っ青になっている。
「………別に貴方方を責めるつもりはなくてよ。悪いのは無断で国境越え、及び行方不明者と自らなった2人に責任があります。一般人の子供だと思い、世話をしていたのは仕方のないこと。むしろ、王族の血が流れるこの2人を今まで保護していただいた礼を、サンチェス国王家の者としてさせていただかなくては」
「と、とんでもございません!」
「そうです! ソフィア様から礼をもらうなど!」
「お気になさらないで下さい!!」
私の言葉に更に真っ青になってしまった。
申し訳ない。
「――とは言っても、礼をするのはアーク・ディエルゴになるでしょうが」
「………あ、アーク・ディエルゴ様…サンチェス国王の弟君でございますか!?」
「そう。彼らはアーク・ディエルゴの子ですから当然です」
何故かもっと真っ青にさせてしまった。
お父様から謝礼されるよりマシだと思うんだけどね?
「さぁ、言い訳は帰ってから存分に父親にするといいでしょう。2人とも、無断で国境越えしていたのですから、強制送還させていただきますわ」
「う、うるさい! 俺達は帰らないぞ!!」
「そうだそうだ! ロード兄様を罪人に仕立て上げた悪王女め!!」
………ほぉ。
「有能な人間を無実の罪で罪人にしたお前なんかの――」
それ以上は怯えて声が出せなくなったのか、縮み上がる2人。
私の後ろから殺気が。
「………ほぉ。人に感知されない薬物を作り、ソフィアを攫い、無理矢理自分の物にしようと不貞を働こうとした男が――無実の罪で、ねぇ」
ラファエル、相手は子供ですよ!
と、言える雰囲気ではないほどに殺気を振りまいている。
心なしか私の騎士達も険悪ムードだ。
………あの時の私の姿を見られているから、思うところがあるのだろう。
「「え…」」
ラファエルの言葉に2人が固まる。
真実、ロードを信用していたのだろう。
自分の兄が罪人なんかではない、と。
他国王太子であるラファエルの言葉には耳を傾けるのか。
血の繋がっている私より。
なんだか悲しくなる。
「ソフィア、この2人は公爵家の人間。共通規約ぐらいは理解しているのかな?」
「当然です」
むしろ、身に染みていなければならない立場だ。
例え社交デビューしていなくても。
「では、こちらで預かろう。不法な国境越えに加え、身分詐称。立派な犯罪だ。王族の血が流れていようと身分は公爵家の者」
ラファエルの言葉に私は少し考え、頷いた。
「ここはランドルフ国です。ラファエル様のお心のままに。わたくしはそれに従います」
私はラファエルに向かって頭を下げた。
視界の隅に2人の真っ青な顔が映ったけれども、私は無視した。
子供といえどもその身分故に許されない行動があるのだと、実践で分からせなければならない。
………決して私を“おばさん”と呼んだことに腹を立てているわけではない。
私が嫁ぐ予定の国で、私の身内――例え血縁ってだけの関係だったとしても、その者達が罪人になるのはこれ以上あってはならないから。
「王宮へ連行しろ」
「「「「「はっ!!」」」」」
「ちょ、ちょっと待ってよ!!」
「おば――ソフィア従姉様!! 助けてよ!!」
足掻く2人を完全無視して、私はラファエルに続き屯所から一足先に出たのだった。




