第454話 無駄な時間
ランドルフ国へ帰る前に、ローズがお父様に挨拶したいということで、王宮へとやってきた。
「ソフィア様、ローズ様、お帰りなさいませ」
連絡もしてないのに、王宮への門から王宮の入り口までズラリと使用人が並んでいた。
「………なに、これ」
ニッコリと笑みを作ったまま、小声でローズに問いかけた。
「なに、ってこれが普通よ」
「………普通なんだ」
「ソフィアが可笑しいのよ。今回はお忍びだから徒歩だけれど、本来はありえないから」
「………まぁ、王女が歩きはマズいわよね。それは分かるけれども、こんな事今までされたことはないわよ」
あ、笑いながら喋ると頬が痙ってしまった…
地味に痛い…
「ソフィアに合わせてくれていたのでしょう? 王様や王妃様、レオポルド様は当然でしたわよ」
………マジか!!
カルチャーショックがここにっ!!
「あのレオナルドでさえ、させてたわよ」
「………無駄な時間を」
私達は使用人の間を通り抜け、私の部屋へと向かう。
お父様への謁見の時間には、まだ余裕があるらしい。
部屋に入れば使用人は一切いない。
「使用人には使用人の時間が――」
「ソフィア。貴女もちゃんと王族として、下の者を使いなさい。威厳を見せるには、パフォーマンスも必要なのよ」
パフォーマンスって…
王と王妃、王太子ならともかく、王位継承権がない私がする必要ないと思う。
税金の無駄…
あの時間で使用人の仕事がどれだけ出来たか…
………って思っちゃうこと自体が、多分王女らしくないんだよね…
サンチェス国なら遠慮することはないんだけれども…
ついついランドルフ国にいるように考えちゃう。
切り替えできる人は凄いと思う。
「ソフィア、そろそろ使用人も使えるようになさい」
ローズが扉を見ながら言う。
………ついに言われたか…
「急に王女が帰還したとしても、身の周りの世話に誰も寄越さないのは、王妃様の品性が疑われます」
「疑われないわね」
「………何故」
「王宮のやり方は全て王の采配」
「それはそうだけれども」
本当は私の進言でお父様が手配してくれたんだけれども。
「実際にお客様がいらっしゃる場所ではちゃんとやってるから、バレることはないわよ」
「………あれがちゃんとやってる、ねぇ…」
意外にローズはパーティーなどで、侍女の所作を見ていたのだろう。
半目になっている。
私のやってることを、ローズは知らないからなぁ…
「ローズ。お父様との謁見時間が迫っているでしょ? 着替えてご挨拶して早く帰らないと、ラファエルとルイスに怒られるわ」
「あら。大変」
ローズが慌ててドレスを変えるために出て行った。
私はゆっくりと息を吐いた。
さっさとランドルフ国へ帰国しなきゃ。
私は衣装部屋へと向かった。




