第453話 連れ去られてきました
キラキラした店の中の装飾品に目が眩みそうだ。
私はソファーに座って眺めている。
嬉々として商品を選んでいるローズ。
ローズの機嫌がよくなったのはいいのだけれど……この店は煌びやかすぎる。
………彼女の懐も心配しそうになるけれど、私の金銭感覚とローズの金銭感覚は違う。
私は国が潤っていなければ贅沢はしない。
ローズはサンチェス国での生活の中で培ってきた金銭感覚のままだろう。
………公爵家から拝借してきたのかしら…
思わずローズの懐に視線が向いてしまう。
「ソフィア?」
「ん?」
「どうかした?」
「何でもないよ」
「そう?」
………それよりも、だ。
なんで私達は、サンチェス国の元私の店に来ているのだろうか。
そして私は何故豪華なお茶を出されているのだろうか。
ローズに言われるまま精霊に連れてきてもらったけれど…
「オーナー。お口に合いませんでしたでしょうか?」
………そして私をまだオーナーと呼ぶんだ…
もう名義は私じゃな――いよね!?
「いいえ。美味しいわ」
「よかったです」
出されたものは飲まないといけないけれども…
飲むのに躊躇するよ…
「これに決めたわ」
ローズがキープしていた装飾品含め、最後の商品を決めたのか、滅茶苦茶良い笑顔だった。
き、金額聞くのが怖い!!
私は耳を塞ぎたかったけれど、人目のあるところでは出来ず、心の中で耳を塞いだ。
そのおかげか、総額は私の耳に入ることはなかった。
「じゃあ、これをランドルフ国の王宮にわたくしの名前で送っておいてもらえます?」
「畏まりました」
あ、送るんだ。
闇精霊の能力で収納できるのに…
………これも貴族の振る舞いってやつね…
「………ところで店長?」
「はい」
「サンチェス国でここ最近の行方不明の子供の情報あるかしら?」
ローズの言葉に、私はピクリと反応した。
先程の子供達の顔が浮かぶ。
「行方不明の子供、でございますか?」
「ええ」
「少々お待ち下さいませ」
慌てて出て行く彼女の後ろ姿を見送り、ローズを見る。
「………ランドルフ国の迷子の子が、サンチェス国の子供だと? ローズが言ったんでしょ? サンチェス国の人間は王女を知っている、って。あの子達は私の名前にさえ反応しなかったわよ」
「ランドルフ国であの服装の平民はありえませんわよ」
「え……」
服装……
………そういえば、綺麗な格好をしていた。
平民には手の届きそうにない…
ということは貴族の子供?
でも足もとはかなり汚れてたから、数日は家に帰っていない……?
貴族の子が数分でもいなくなれば騒ぎになる。
けれどランドルフ国の貴族達が騒いでいる気配もなかった。
だからこっちに来たの?
「あら。あくまでついでですわよ」
「え…?」
「装飾品。ランドルフ国では手に入らないでしょう? だからこっちに来たのよ」
「ルイスから貰ってるんじゃないの?」
「あれは学園のパーティー用でしょう? 王宮で開く予定のパーティー用も色々いるでしょ」
………そうですね。
それを揃えるが為に元々出かけていたんだものね。
ガルシア公爵領の行商人が扱っているだろう装飾品を見るために。
「お待たせ致しました」
店長が戻ってきた。
「今のところ行方不明の子供はいらっしゃいません」
「そう。ありがとう。じゃあまた寄らせてもらうわね」
「はい」
ローズと私は店を後にした。
「サンチェス国の子供が行方不明になっていなくて良かったですわね」
「サンチェス国の子供がランドルフ国にまで来られると思えないけれど」
「念の為に訪ねただけよ。………あの子供達気になるのよね」
その言葉に、私は頷く。
「あの子供達、まず初めに“お父様”と口にしたし、その割には口が悪かったし」
「サンチェス国が関わっていなければそれでいいのよ。やはり今回もランドルフ国の問題ですわね」
ローズの言葉に私の頬は引きつったのだった。




