第442話 そんなに嬉しい?
いつも通りにラファエルと共に朝一番、教室について席に座り、今日も試験勉強をしていた。
そのうち、ザワザワと教室、というか学園内が騒がしくなってくる。
「ラファエル様、ソフィア様」
後方から声をかけられ、2人して視線を向ける。
「おはよう」
「おはようございます。マーガレット嬢、スティーヴン殿」
「「おはようございます」」
「どうかなさいました?」
首を傾げると、マーガレットが頭を下げてくる。
「遅くなって申し訳ございません。先日のお礼をと思いまして」
「………何かありましたっけ?」
思わずラファエルの顔を見てしまう。
分かる? と言外に聞くように。
「ソフィー様とヒューバートの件です」
「ああ。ソフィアが騙し討ちで追い出した件か」
ラファエルの言葉に、頬が引きつってしまう。
「まぁ。ラファエル様、それは人聞きが悪いですわ。わたくしは行ってきて、とお願いしただけです」
「力技でね」
ニッコリ笑って言わないで。
確かに精霊の力を使って、馬車に押し込んだけれども。
「私もその場にいたかったな。さぞ面白かっただろうに」
完全に面白がっている。
というか、ラファエルにとっては、その後の私の行動が楽しかったのだろう。
思い出し笑いしているし。
「ラファエル様!」
「あはは。ごめんごめん」
むぅ…っと思わず頬を膨らましてしまい、ラファエルに頬を撫でられる。
その様子に、2人に笑われてしまった。
「ふふっ。申し訳ございません。相変わらず仲がよろしいようで羨ましいです」
「え……」
マーガレットの言葉に、スティーヴンが狼狽える。
婚約者の前で他のカップルを羨ましいと言えるマーガレットが強い…
「あら。スティーヴン殿もマーガレット嬢を大切になさっているではないですか」
「大切にしてくれてはいるのですけれど、親密かと問われれば違いますと答えます」
「マーガレット!」
こんな所で何を言うんだ、とスティーヴンがマーガレットを諫める。
頑張れスティーヴン。
私もここでそんな事言われても、返す言葉が見つからないから。
「スティーヴン。好きならもっと積極的にいかないと」
「ラファエル様!」
今度は私がラファエルを止める番になってしまった。
っていうか、スティーヴンまでラファエル化したら、マーガレットが気の毒――
………いや、マーガレットはむしろ歓迎、かもしれない…
って、そんな話じゃなかったでしょ!?
「は、話が逸れてますわ! ソフィーとヒューバートとは話せましたか?」
「あ、そうでした。知りたかったことは知れたので、ありがとうございました」
「そうですか。よかったです」
マーガレットとスティーヴンが納得できたのならよかった。
行かせたかいがあった。
「それとお伺いしたいことがあるのですけれど、よろしいでしょうか?」
「なんでしょう?」
「ソフィア様は、長期休みの期間中お茶会を開くご予定はありますでしょうか……?」
その言葉に、教室中の女子が反応したのが視界の端に映る。
………ぁぁ、これは逃げられないな…
「まだ未定ではあるのですけれどね。王宮内も落ち着いてはおりませんし…」
私はマーガレットの所を含め、全ての貴族が開くお茶会には参加できない。
マーガレット達貴族令嬢が私が参加するお茶会、もしくは出席するパーティに参加する為には、ラファエルか私からの招待がなければならない。
私がいる集まりに参加できること自体、彼女たちにとっての名誉となる――らしい。
私にはそんな価値ないんだけれども。
王女としては価値あるんだろうな。
「そうですか…」
不安そうな顔をするマーガレットに苦笑する。
「開くときは、マーガレット嬢に必ず招待状をお送りすると、お約束しますよ」
「本当ですか!?」
「勿論ですわ」
思い切り嬉しそうな顔をするマーガレットに、ラファエルとスティーヴンも苦笑する。
教室内にいる令嬢達は、そんなマーガレットを羨ましそうに見ている。
………そんなに参加したいのかな?
………ラファエルが招待する貴族子息目当てかもしれないけれど。
私は暫く招待する人選に悩んだのだった。




