第440話 周囲は知らない間に
「………つくづく邪魔されるんだね」
「ご、ごめんなさい……」
真っ黒になった試験模擬問題は修復など不可能で…
摘まんで呆れ顔で紙を眺めるラファエルに、私は謝ることしか出来なかった。
原因はアルバートなんだけど、ペンが壊れたのは私のせいだ。
でも女の私が力入れたからって、簡単に折れちゃったペンにも原因があると思う。
私の過失は少しのはずだ。
「アルバートにも呆れたものだけど、アシュトン公爵も妙な時期に呼び出すものだ」
「妙な時期……?」
首を傾げると、ラファエルは真っ黒になった紙を破って捨てて、予備だろう紙にまた試験模擬問題を書いていく。
「アルバートもフィーアもソフィア付きって知ってるんだし、長期休暇まであと少し。ソフィアの境遇も分かっているんだから、王宮で待機できる時期に呼び出すべきだろう」
「ぁぁ……じゃあそこまで待てない理由が出来たんだ」
「まぁ、理由は分かるけど」
「分かるんだ…」
「多分だけどね。長期休み中、貴族は交流会と称してお茶会や交流パーティ開くから、その段取りとかあるだろうからね」
そっか。
こっちの社交シーズンになるのか…
「あ、じゃあ私も行かなきゃいけないのかな?」
「王家は基本招待されない」
「………」
「招待する側だからね」
「………ですよね…」
ちょっとは顔見知り増えると思ったんだけどな…
学園の同年代だけでなく、貴族の夫人とかにも繋がりなかったらいけないし…
「こっちに招くのはまだ時間がかかるんだよね…」
「何か問題?」
「王宮侍女が足りなさすぎるのよ」
「え? 精霊で補填してるよね?」
首を傾げて不思議そうな顔しないで。
可愛いから。
「それが問題なの。精霊の顔は、貴族の間に広まらない方がいい。貴族夫人の情報網を甘く見たらいけないよ。どこの誰だか瞬時に見抜く。覚えのない精霊達が大半を占めると――」
「………ああ、王宮内が乗っ取られていると考えられる?」
理解が早くて助かります。
「そう。サンチェス国の人間を大勢入れてると思われたら、一気に信用無くすよ。ラファエルの。精霊をランドルフ国貴族と偽るのもダメ。どこの家のものか探られる。適当になんか言えない。それが元でトラブルなんて以ての外」
「それはマズいね…」
ラファエルの威厳を無くすわけにはいかないし。
「私はあくまでラファエルの付属品」
「ソフィア」
窘められるけれど、首を横に振る。
「ここはラファエルの国で、私の国じゃない。私が指示するのではないのだから、ラファエルの信用を失わせるわけにはいかないし」
だからこそ、人の侍女を増やしたい。
でも今の体制では貴族令嬢しか雇えないから…
「それでこの間の平民の見習い雇い提案って事ね」
「階級関係ない人の方が、一生懸命働くよ。生活かかってるからね」
本当に、貴族よりよく働く平民は沢山いる。
その人達が本当は貴族になった方が良いのだろうけれど。
でも、権力を持つと人はどのように変わるか分からないから、油断できない。
「でも平民って分かったら逆に貴族の神経逆撫でしない?」
「それも考えたけど、貴族はそんなこと言える立場じゃない。平民の生活を奪った張本人たちなんだから。その民たちの生活の為、王族が掬い上げたのだと言えば何も言えない」
「なるほど…それにソフィアが国民のために王家がいる、って公言してるから、学園の生徒たちも理解があるし。俺も民のためにと貴族を粛清したしね。分かった。早急に何とかする」
「お願い」
早めに可決させてくれるとありがたい。
長期休暇中1度はお茶会を開かないと、貴族夫人に舐められちゃう。
ラファエルの為にも、私は貴族夫人の頂点にいなければならない。
その為には、王宮の体制立て直さないと…
「………って、その前に試験!!」
「ああ、そうだったね。はい。新しいの」
今の会話の合間に問題を書けるラファエルを尊敬するよ…
大人しくもらって、勉強しましたとも。
「今度は2位になれそうだね」
「無理です」
「でもその問題超難問なんだけど、普通に解いてるよね」
「え…」
「え?」
キョトンとされる。
いやいやいやいや!!
「なんて問題をさせるの!?」
「だってソフィアどんどん吸収するから、もうランドルフ学園の2学年の問題全部教えちゃったし」
知らない間に何をされているんですか。
「58位の人間が急に2位になんてなったら不正疑惑浮かぶからぁ!!」
「教室で俺に教えられてスラスラ解いてたから、その疑惑は浮上しないね」
ラファエルが私の知らない間に周囲を固めてた!?
これ、絶対失敗できないやつ!!
私はプレッシャーに負けそうになっていた。




