第44話 彼は計算高い人間です
ランドルフ国に帰国すると、王と王妃に挨拶に行った私とラファエル。
ムッとしている王の前に、借金の一部返済金として稼いだお金の袋が1…2……3……4………以下略
ってどれだけの利益出してるのよラファエル!!
人一人二人入れそうな大きな袋が並んでいる。
………ぼったくり金額聞きたいような聞きたくないような……
「これで借金の4分の1は返済できます。徐々に金額を増やせていけるでしょう。ですから」
「………」
あのね、ラファエルさん。
お父様の顔が怖いの。
なのに笑顔で、ご機嫌な声で言わないで……
「ソフィア様はランドルフ国に連れ帰りますね」
「………」
王の怖い顔が般若みたいな顔に変化したから!!
ハートマーク付きそうな声色で言わないで!!
言外に、婚約解消なくなっただろう、これで文句ないだろうって言ってる。
「約一月でこれだけ利益出したのですから、返済も遠くないですよ」
レオポルドの言ったとおりになってきてる。
………王子達恐ろしいね……
「………二月だ」
「はい?」
「二月に一度はソフィアがここに帰国することが条件だ」
王の言葉にラファエルがニヤリと笑った。
………勝った、みたいな顔しないで……
「婚約者期間は良いですよ」
「何?」
「結婚したらソフィアはランドルフ国王家の人間になりますから。王家の人間が二月に一度の期間は物理的に無理でしょう」
ギリッと王が奥歯を噛み締めたのが分かった。
「あ、二人また喧嘩してるの?」
ひょっこりと大広間の入り口から姿を現したレオポルド。
「お兄様」
「ソフィア、もうランドルフ国に戻るんだって? さっき聞いて急いで来たんだ」
「ごめんなさい。急に」
「いや、ランドルフ国も大変な時だしね。立て直さないといけないことが山ほどある。こっちで定期的に利益でるような算段付いたんだし、早めに帰ってあっちの国の為に動かないとね」
王と王妃の前だからレオポルドの口調が柔らかい。
………うん、人のこと言えないけど、怖いよね色々と。
「こっちのソフィアの店とラファエル殿の店は、俺の方で管理しておくから。何かあったら報告するよ。利益の一部を定期的に借金返済に当てるって事だから、俺の部下が回収に行くように手配する」
「盗難とかさせないでくださいよ」
「大丈夫だよその辺は」
おおぅ……
今度はラファエルとレオポルドが笑顔で話しています。
………目線のバチバチが見えなければ、平和的な会話なんですがね……
「では、失礼いたしますね」
「あ、お父様、お母様、お兄様、また帰ってくるときにお手紙出しますね」
「ええ」
「気をつけて行っておいで」
「………病気にはなるなよ。あと怪我するな」
「はい!」
私は三人に頭を下げて、ラファエルと共に後にした。
荷物はもう馬車に積み込んでいたので、私達が乗るだけで馬車は出発した。
遠ざかっていく王宮に、私は少し視線を下げた。
――行ってきます。
「そういえば、ランドルフ国で甘味店を作る件だけど」
「………ぇ」
だからそれは国民にお金が無いと失敗する提案なんだけど……
「ランドルフ国用にした利益の半分を使って、甘味だけ先に配ろうと思って」
「………どういう事?」
首を傾げると、ラファエルは微笑んで説明してくれる。
「今、ランドルフ国民は衰弱した体を漸く元に戻せてるところだ。そこに甘味で気分を軽くしてもらって、仕事に励んでもらおうと思って。で、取りあえず規定の税の半分を収めてもらうようにする。そして、税の半分を懐に収めてもらって、通常のサンチェス国の食物を買ってもらう。その売上で通常の税を納めてもらえるように努力してもらう」
「でも……」
「それまでに何とか王を蹴落とさないとな」
………今、物騒な言葉が……
「国政の改正は追々でないと一気に出来ない。まずは国民に通常の生活を送れるようにしてもらわないといけないし。腐った王族の人間は徹底的に落としていかないと」
「………策はあるの?」
「大体は。王族は影に不正の証拠握らせてある。全員一斉に落とす」
キッパリと言ったラファエルに、私は怪訝な顔をしてしまった。
「一斉って、大丈夫なの……?」
「処分の仕方にもよるけどね。まぁ、そっちはあんまり心配しなくて良いよ」
「………問題は王、ってことでしょ?」
一番厄介な人。
サンチェス国と同盟を結ぶまでは、結構まともに国を纏めていたと思う。
問題がなかったから、サンチェス国も同盟を結んだのだし……
「………まぁ、影の報告では、昔の王が戻ってきているらしいけど」
「………へ?」
「元々父は、兄達が産まれるまではまともだったらしいよ。兄達が産まれてからは溺愛してやりたいように甘やかしてて、国庫を使い果たしてしまうまで止められなかったダメ親だけど」
「………」
それは許容範囲を超えているから結果的にダメな人の部類だよね……
「まだ若い俺に王として立たれると国民は不安がるだろうから、王は表立って目立ってもらわないといけないんだけどね。裏は俺が仕切るけど」
「でも、ラファエルが食べ物を配ったのを見てる人がいるから…その辺は大丈夫じゃない…?」
「直接配ったのは俺じゃなくてソフィアでしょ。王都の人間は知っているけど、各街の人間は知らない。ソフィアが表立って顔を出せるのは俺の妃になってから。その時は俺は20だから、それから王として立つのは国民には許容範囲かな。だからそれまではあのダメな王にいてもらわないと困るんだよ」
………ごめん、ラファエル……
私そこまでラファエルが考えてるとは思ってなかったよ……
「王を落とすあと一歩が――」
不意に真っ直ぐに見られました。
………ですよねー。
兄と同じく王を落とすにも私の名前、必要ですよね……
フッと思わず遠い目をしてしまうと、私が理解できたと判断したラファエルが申し訳なさそうな顔をした。
………いや、協力するのは良いんだけど、私が失敗しないかどうかが不安なんだよね……
ランドルフ国への道が、少しでも遠くならないかな、と思ってしまった。
 




