第438話 デートです
「わぁ…」
私は現在、城下でデート中。
ラファエルの手を引っ張って歩いている私は、令嬢としてあるまじき行為。
けれども1度で良いから制服デートで、何も気にせずハメ外してみたいというのは、私の憧れ――未練でもある。
だから例え護衛達に呆れた顔をされようが、青筋作られようが、今の私は気にしません!
「エル様見て下さい! 綺麗です!」
商品を指差しながら、私はラファエルの方を向いた。
ここではあまり名前を呼ばないでくれと言われたため、エルと呼ぶことにした。
ちなみにラファエルは私のことをユイと呼ぶそうだ。
………恥ずかしいけど…
城下街はこの頃――温泉街が開放されてから、他国の者が通行する方が多い為、こっちの方が良いのだとか。
慣れないから、無意識に呼んでしまいそうになる。
店の人は気付いても黙って他人の振りしてくれてるから、大丈夫そう。
「そうだね。ユイに似合いそう」
「え? アマリリスの方が似合いませんか?」
「アマリリスはこっちの色だね」
「ではこちらはフィーアで、こちらはソフィーですね」
スッと手を伸ばそうとすれば、ラファエルに手首を掴まれる。
「はいストップ」
「え…?」
「今日は俺とユイのデートだよ。侍女のお土産買いに来たわけじゃないよ」
「あ、そうでしたわ」
ついみんなに似合うと思って。
苦笑すると、ラファエルは私が最初に綺麗だと言った首飾りを手に取った。
「これちょうだい」
「まいど!」
ラファエルは首飾りを購入し、私の首にかけた。
「え……ぁ…」
「うん、似合ってる。ユイの色だしね」
首飾りには珍しい紫色の真珠が3つ付いている。
「後で紅の珠を付けてもいい?」
耳元で囁かれ、頬が熱くなる。
言葉は出せずに、コクンと頷く。
「ユイの希望通りに、あまり高くないものを付けるから」
「は、はい」
ラファエルはニッコリ笑って、私の手を引いて歩き出す。
パタパタと手で顔を扇ぎながらついていく。
いつもラファエルの言葉は不意打ちだから困る。
「次どこ行こうか」
「エル様はどこか見たいところはないのですか?」
「ユイの笑顔が見られるのならどこでも」
「っ…!!」
だ、だからなんでそういう事を言うの…!!
顔の熱が引かないよぉ!!
私の顔を見てラファエルがますます嬉しそうな顔をする。
どうせ真っ赤なんでしょ!?
分かってるよぉ!!
「で、では、お揃いの小物入れなど見てみたいです」
「小物入れ?」
「はい。装飾品入れなど、共通の物を入れておく用に。いかがですか?」
「いいね。じゃあ――って、この城下街にそういう店ないよ」
ラファエルの言葉に上がったテンションが萎んでいく。
………そういえば城下街は主に食べ物関係しかなかった。
首飾りを売っていた店の方が珍しい。
「………また今度、小物入れを売ってる店に、一緒に行ってくれますか…?」
「勿論だよ。約束」
どうにかテンションが戻り、私は微笑んだ。
「じゃあ、今日はこの辺で帰ろうか?」
チラッとラファエルが後方を見た。
首を傾げて私も同じ方向を見ると……怖い顔した人が大量発生――いや、大勢いた。
「………エル様……つかぬ事をお聞きしますが」
「………何?」
「………あの方達はお知り合いでしょうか…?」
「………うん。ユイが会ったことない影だね」
………ラファエルの影達、厳つい顔の人多すぎません!?
なんだろう。
意外とイケメンばっかり見てたから、恐怖が半端ない。
お父様の顔を2倍濃くしたような感じ、と言えばいいのだろうか…
「ルイスがそろそろお怒りらしい」
「………ぁ、そうですか…」
どうやら影の顔の濃さで緊急かそうでないかとかの区別をしているらしい。
………若干失礼だと思うけれど…
私はラファエルに手を引かれ、王宮へと向かった。




