第433話 予想外に
ラファエルに部屋に連れ戻され、医者に手当てされた。
幸い、前より鍛えられていたおかげでそんなに酷くなかったらしい。
翌朝、医者に大丈夫だと言われ、私は嬉々としてダンスの練習をまたしようとしていた。
………ラファエルに腕を掴まれるまでは。
「………な、なに……?」
「………本当に動いて大丈夫なんだな?」
「はい。大丈夫でございます」
「………」
ラファエルが医者を睨みつけている…
医者の方はニコニコ笑ってラファエルに答えている。
………つ、強い……
ラファエルの睨みに怯まないとは…
慣れているのだろうか?
「………もし言葉を違えていたら」
「ありえませんな。ラファエル様はこの老いぼれに、幾度となく治療されたはずですが?」
「ぐ……」
やっぱりラファエルのことよく知ってるんだ…
私の知らないラファエルのこと、教えてくれるかな?
「ラファエル様より手のかからない患者で助かりますわい」
よっこいせ、と言って立ち上がる医者。
「いや絶対ソフィアの方が大変だって。自分で毒食べるし」
「………ぇぇ……?」
心外な…
毒と分かって食べたわけじゃないのに…
「それはラファエル様とて同じでしょうに。紅茶毒を服用し、あまつさえ内密になさり、ソフィア様に愛想尽かされそうに――」
「なってない!!」
………確かに、愛想は尽かしてないな。
「ネガティブ思想になってソフィア様に捨てられると嘆き――」
「な、嘆いてない!!」
………ラファエル、何故つっかえた…
「この王宮に来たときなど、あちらこちらにいらぬ傷を負っていて、触るな近寄るなと手負いの猫のように」
「お、おい!! そこまで言うことないだろう!? 昔のことを掘り返すな!!」
へぇ……
まぁ、裏の世界にいたのなら、そうなるだろうね。
「兄君達に躾と称して鞭打たれたら、闇討ちなさろうとして転んで失敗し――」
「転んでない!! あれは騎士に足を引っかけられて転ばされようとしたんだ! 踏ん張って耐えたぞ!!」
うん、段々変な方向に向かってるぞ…
「食べる物がなく、雪を腹一杯食べて腹を下しになり」
「待て待て!! 何話を盛ってるんだ!!」
え?
これはどっちなの?
「事実でございましょう」
「事実無根だ!!」
と言いつつも、ラファエルの慌てようを見ると、事実なのかもしれない…
「あの……」
「おや、これはソフィア様。失礼致しました」
医者が恭しく頭を下げる。
え?
もう終わり?
もっと聞きたいんだけど。
「もう行こうソフィア! こいつと話ているとダンスの練習の時間なくなるから!」
「え? 一緒に練習してくれるの!?」
医者の話の続きも気になるけれど、ラファエルと練習できる貴重な時間は大事にしないと。
また今度この医者に話を聞こう。
「あ、あの、ありがとう。お名前は?」
「わたくしは、ウェンと申します」
「ウェンね。覚えておくわ」
「光栄でございます」
「そんな老いぼれ爺なんて覚えなくていいよ。早く行くよ!」
私はラファエルに引きづられるようにして部屋を後にした。
ウェンは、ほっほっほっと至極楽しそうに笑っていた。
ラファエルをからかうのが面白いのだろう。
私は苦笑しながらラファエルについていったのだった。
ラファエルとダンス。
足を踏まないように気をつけないと!
私は頭の中でダンスのステップを反芻しながら、部屋に向かったのだった。




