第430話 それは仕方ない
お茶のお代わりを貰って口を付けたとき、ふと私は顔を上げた。
「そういえば影三」
『はい』
「かなりお兄様と連絡つくのが早かったけど、どうして?」
『走っていたら攫われました』
「「………は?」」
静かに聞いていたラファエルも、思わず私と共に声を上げた。
他の騎士も侍女もポカンとしている。
『鳥に首根っこ掴まれたと思ったら、一瞬の間にサンチェス国王宮の上でした』
「………ぁぁ、そう……」
十中八九、火精霊かその属性の精霊だろう。
火精霊達も相当怒ってるなぁ…
「で、帰りも?」
『はい』
ラファエルの言葉にも影三は答える。
そりゃ1晩で戻ってこれるわね。
今後の連絡も火精霊達の力を借りれれば、早い連絡が可能になるね。
電話やネットがない世界で、これは助かる。
「………ぁ、ラファエル」
「ん?」
「カイヨウ国の王女はどうしてるの?」
「なんで?」
興味なさげに返される。
いや、だって…
「私、ずっとカイ王子に付きまとわれて逃げ回っていたから、カイヨウ国の王女にまで気が回らなかったし。言い寄られてたり、しない?」
「………へぇ」
今度はニヤニヤしながら、頬杖ついてラファエルに見られる。
「………気になる?」
………ラファエルの顔を見ていたら、言いたくなくなる…
なんかムカッとしたし、なにより恥ずかしい…
「ソフィア~?」
「~~~~~ぁぁもう! はい! 気になってます!」
ヤケクソで火照った顔で叫べば、ラファエルが嬉しそうに笑う。
「ソフィアの嫉妬、嬉しいなぁ」
「ぅぅ……」
何故かラファエルが隣に座り直してくるよぉ…
腰抱かれるし…
恥ずかしいからジッと見ないでぇ!!
「心配いらないよ。何度か近づいてこようとしたけど、その都度用事がある呈を装って、すぐその場から離れてたし」
「そ、そっか……」
「ソフィアにあの王子の行動と思考を知るために、囮になっててもらったからね。ソフィアがいないことで俺もあの王女の行動を観察してたし」
………知らない間に囮にされてたのか…
別にいいけど…
学園で別行動多いなとは思ってたんだけどね。
教師に呼ばれた、とか、少し用事があるから、とか言ってたから疑ってなかったよ。
ラファエルの役に立ったのなら良かったと思う。
「もうそろそろあの王女も潮時だろうね」
「え…?」
サラリと言われ、私は理解するのに少し時間がかかった。
「あの王女からも得られるものがないと、ハッキリ分かったからね。もしかしたら養殖とかのヒントが得られるかもと思ったけど」
ぁぁ、そういえば…
カイヨウ国は唯一海に面した国で、魚類はカイヨウ国でしか手に入らない。
それをランドルフ国で、魚の養殖場を作ろうとしてるから、養殖に関する何かを得たかったんだ。
「……それは難しいと思うけど…」
多分カイヨウ国では養殖はしてないだろうし、あの王女は国に関することは殆ど知らないだろうね。
あの時、私とラファエルの言葉について来れなかったから、それ関係には一切関わってないと推測できる。
「うん。だからこのままこの国にいさせるメリットってないんだよ」
「そうだね」
彼女はラファエルの――ランドルフ国の正式な来国者ではない。
あくまで個人的に彼女がこの国に来ただけ。
この国で問題を起こしている彼女を、このままこの国に置いておく意味はなくなったということ。
得られるものは何もないのだから。
「………ラファエルが、というかルイスがこの国に、他国王族の来国を無条件に許可しているのは、情報を得たいがため、なんだね?」
「そうだね」
………何処か他人事だねラファエル…
ラファエルにとっては、どっちでもいいって事なのかな?
それは王太子としてどうなんだろう…
首を傾げると、ラファエルが笑う。
「俺にとってはソフィアと国民優先だからね。他国のことよりこの国の繁栄が目先の目標。他国に関しては後でいいよ。落ち着いてから手を伸ばしていけばいい。でも、偶然手に入るだろう情報は取りこぼすつもりはないけど」
「………ぁぁ、なるほど…」
「こっちに他国王族が来るのは別に制限しないよ。こちらが何もしなくても、情報を持った者が来るのは願ったりかなったりだからね。相手の国に対抗する手段を講じれるから」
実際には成果は得られなかったけれどね。
この世界の王族大丈夫か? とは思うけど。
「今回もまた失敗だけどね」
「ラファエルとルイスの思惑通りにはいってないね」
「他国がうちを気にしてるのは当然だからね。急に立て直している手段を探りに、まだまだ送り込んでくると思うよ。――非公式を装って」
………うん、ラファエルが良い笑顔だ。
意地の悪いこと考えているんだろうなぁ。
次に来る人はまともな人が良いなぁ。
ちゃんとした対応できる人が来るのを期待する。
「ソフィアにしたことをカイヨウ国王に伝える。強制送還をする、とね」
「………分かった」
ラファエルの決めたことなら、それでいい。
私はもう1度お茶に口を付けた。
………ただ、あの王女は転生者だ。
強制送還になったら、何かするかもしれない。
気をつけないと…
私はあの王女がしそうなことを考えながら、そっと目を閉じた。




