第426話 まどろみから
鳥の鳴き声に意識を浮上させ、欠伸をしながら起き上がる。
お腹周りにはラファエルの腕がある。
いつもはギュッと抱きしめられているんだけれど、今日は力が弱かったようで、私はすんなり起き上がれた。
『御前失礼してもよろしいでしょうかソフィア様』
「………いいよ」
スッと影三が降りてくる。
「おかえり。早かったね」
私が言うと、影三は頭を下げた。
「………お兄様は?」
「雑談程度にソフィア様のお名前を出したそうですが、レオポルド様がメンセー国王子に、ソフィア様に相談するようにとは一言もおっしゃってはいないようです」
「そ」
「勝手に名前を出して、ソフィア様を誘導しようという行為、レオポルド様はお怒りです」
「でしょうね」
1国の王子が、他国王女に嘘ついて協力仰ぐことなど、あってはならないこと。
………そうまでして私に協力を仰ぎたいのかな……
そこまでするほど、切羽詰まっているのだろうか?
「あと、レオポルド様からのご伝言が」
「なに?」
「『俺が公言している友人は、ラファエル殿ただ1人。他国王子と友人になることはありえないよ。ただの同盟――仕事相手だ』とのことです」
「………確かに聞いたわ」
影三は私の言葉を聞き、頭を下げたと思ったら1つ瞬きする間に消えた。
ふぅ……と息を吐き、ポフッとまたベッドに横たわった。
すると、ラファエルの腕の中に抱き込まれる。
「ひゃぁ!」
「………んぅ……おはょ……ソフィアぁ……」
「………」
相変わらず可愛いなちくしょー…
「………ソフィア……?」
「あ、うん。おはようラファエル」
寝ぼけ眼で見てくるラファエルの可愛さに、思わず額に口づけた。
それがくすぐったかったのか、身じろぎするラファエル。
笑ってしまった次の瞬間、私は仰向けにされていた。
何が起こっているか分からなかったけれど、唇を塞がれたことによってラファエルに仰向けにされたのだと分かった。
「………ソフィア……最近俺の理性を飛ばすようなことばっかりして……悪い姫様だな」
「え……」
ラファエルが何を言っているのか分からない。
キョトンとラファエルを見ていると、はぁ…とため息をつかれ、胸元に顔を埋められる。
「ちょ……ラファエル……!!」
私のない胸に!!
「もぉ……無自覚とか……俺の宝が無意識に甘えてきて辛い……」
………ラファエルは一体何を言っているのだろうか……
あ、甘えて欲しいとか、言葉が欲しいって言ったのはラファエルなのに……
それに無意識じゃないよ!!
「い、一応意識的に甘えてるんだけど……ダメ……?」
「くっ……意識して甘えてくれてるのに、自分が俺の理性を飛ばすことは変わらない…ソフィアが小悪魔になりつつある……」
………小悪魔って言葉は何処で覚えたんだろう……
っていうか…それは小悪魔って言っていいのだろうか…
「もぉ……じゃあもう甘えない――」
「やだ! 甘えて!」
………どっちなんだろう……
「婚前交渉は絶対にしないから!! 俺が我慢するから!!」
「!?」
ラファエルの言葉に一気に顔に熱が集まる。
り、理性って、その理性ね…
………まともにラファエルが見られなくなっちゃった…
「え、えっと……私はラファエルに我慢して欲しいって思ってないから……甘えるっていうか……抱きつくとか口づけとか止めて……」
「止めちゃダメだって。俺、嬉しいんだから。嬉しすぎてタガが外れないようにするから今まで通りで!」
「は、はい……」
ラファエルの勢いがよくて反射的に頷いてしまう。
っていうか、今まで通り、っていうのなら理性云々を口に出さないで欲しい。
顔の熱が引かないよぉ……!!
「それにソフィアから口づけてくれることなんて滅多にないんだし!」
「っ!!」
そ、そんな事を声高々に言わないでよ!!
隣にまで聞こえちゃうよ!!
「もう何も言わないから、もう1回してくれる?」
「うっ……」
まるで捨てられた子犬のような目をして私を見ないでっ!!
私今、茹で蛸だよね!?
恥ずかしすぎる!!
「ソフィア」
「………」
強請るように目を閉じるラファエルを見て、覚悟を決めて顔を近づけ――
「おはようございますラファエル様、ソフィア様。起床時間です」
「………ルイス…」
ラファエルが起き上がってルイスを睨んだ。
突如として現れたルイスに、邪魔をされた。
私は枕に顔を埋め、恥ずかしさがなくなるまで動けなかった。




