第424話 やっぱり接してみないと
『主』
「あ、ついたんだ」
頭の中に水精霊の声がし、私はソフィーに後を託し、ソファーに背を預けてゆっくりと目を閉じた。
映るのは真っ暗な闇だったのが、まるでテレビ画面のようなノイズが入り、そして映像が映し出されている。
侍女の監視に使用していた監視カメラのような能力を使い、現在ラファエルの執務室を盗み見しております。
だって気になるんだもん。
ラファエルは私に都合が悪い事は省くと思うし。
………やっぱり監視カメラとか開発してもらって、設置してもらおうかな。
録画できたら罪人を裁くときに証拠として採用できるしね。
『お目通り頂けて、感謝致します。王太子殿下』
『………』
『まだお怒りですか』
『………自分の婚約者に色目使う男を信用しろと?』
『申し訳ございません。王太子殿下に意識してもらおうと思いまして』
………そんなことで私にちょっかいかけないで欲しい。
褒められたらちょっとドキッとするんだし!
そんな事ないと思ってても、嬉しく思っちゃうから!
『………』
『悪戯にお心を乱してしまい、申し訳ございません』
カイ王子が頭を下げる。
………朝とは別人だな…
『ですがお願い致します! 我が国にソフィア様のお力を貸して下さい!』
『………助力を願うにも手順があるだろう。何故、わざわざ喧嘩を売るような真似をする』
ラファエルが他国王子に上から目線だな…
王太子と王子だからかな…?
『ああ、それはソフィア王女があまりにもお美しかったもので』
ぶっと思わず咽せてしまいそうになった。
な、何を言っているんだあの王子は!!
お世辞にも程がある!!
『確かにソフィアはこの世の誰よりも美しいけどね』
………何故そんな嬉しそうな顔をするのラファエル……
ラファエルの評価は純粋に嬉しいけど…
王子の言葉には鳥肌が立った…
私の身体は正直だなぁと他人事に思ってしまう。
『ってそうじゃないよ。ソフィアは俺のだから見るな触れるな近寄るな』
『申し訳ございません』
………この2人だけだと本題に入れないんじゃ……
と思っていたら、咳払いをするルイスが。
あ…いたんだ。
『ラファエル様』
『分かってるよ。で、俺――というよりソフィアにか。何の話だ』
『レオポルド殿より、妹君が優秀だと聞きました。我が国の製品が売れなくなっている原因を突き止め、何か対策案を出して頂けないかと』
………私に言っていたのと同じ内容か……
本当にそれだけの為にランドルフ国に、しかも学園に入ってくるだろうか…
『ソフィア様に危害を加えようとしておいて、随分図々しい要求ですね』
あ、ルイスが参戦。
『大変申し訳ない……私としたことがついソフィア様の色気に魅了されてしまいまして』
………嘘つけ!!
魅力半減って言ってたじゃない!!
『………2度とソフィアに近づくな』
『申し訳ございません…』
『………それで?』
『………はい?』
『ソフィアの助力を願う見返り。まさか他国に対して助力しろというのに、無償でしろという訳ではあるまい?』
『………っ……』
ラファエルに無表情で見られ、息を飲む王子。
そんなまさか。
1国の王子なんだから、それぐらい分かってるでしょう。
どんな見返りを用意しているのだろう。
『………』
『………どうした?』
『も、申し訳ない……』
ポカンと、ラファエルとルイスは王子を見た。
………え……
私も唖然としてしまった。
………まさかの無償、ですか……!?
『………話にならないんだが…』
ぁぁ……ラファエルが頭を抱えてしまった。
『私には王位継承権がなく……自分の財産も殆どないので…』
『親兄弟に助力願うのならばまだしも、他人に願うのならば何かしらの褒美は用意しなければならないだろうが…』
………どんな生き方をしてきたのだろうか…
どんな教育を受け――って…彼、色んな意味で正しいクラス分けだったのだろうか…
『………親が何でもホイホイ願いを聞き入れていたんだろうな。箱入り王子』
『………』
『国に助けを求めるんだな。見返りもなく助けてくれるとは思わないことだ』
『い、いや! 国には言えないのです! 王子の誰かが今の国の状況を何とかする、それが王太子の条け――ぁ』
………成る程……
ラファエルも私も半目になってしまう。
『………先程、王位継承権がないと言っていなかったか?』
『………私は庶子の子です。でも、王は俺も他の子供と分け隔てなく接してくれました。王のために何とかしたいんです! 他の王子は競ってばっかりで、肝心の国のためにとは動いていないので…そんな時、ソフィア様がランドルフ国を立て直したという噂を聞き…』
………どうでもいいけど、この世界では一夫一妻制だけれども、愛人持つ王が多すぎないか?
お父様みたいにお母様一筋っていうのが、世襲制故に難しいのは分かるけどさ…
『………事情は分かった。今日は帰ってくれ。ソフィアに会うのも、ソフィアに案を願うのも禁じる。暫くは学園で過ごすがいい』
『ですが!!』
『連れ出せ』
ラファエルが命じ、王子は連れ出された。
何か叫んでいたがラファエルは無視し、執務に戻った。
………それにしても、あの王子も他の王子と変わらず、王の器だとは思えないけれどね…
ラファエルとの会話でボロ出し過ぎ……
女遊びだけ、女を口説く言葉だけ上手くても…
………第一印象は、女好き、とは思ったんだけど、見た目は仕事できそうだったんだけどな……
やっぱり、人の一面だけで判断するのは危険だと、学んだだけまだマシなのだろうか…
「『はぁ……』」
私とラファエルのため息が、奇しくも被ってしまったのだった…




