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第420話 不愉快極まれり

誤字報告ありがとうございます!




メンセー国王子に密室で、更に壁に押しつけられ、逃げられないようにされている私。

隠し持っていたナイフまで取り上げられ、もう私は抵抗する術がなかった。

………ラファエルまで人質に取られているし。

でもラファエルが来てくれたら、まだ何とかなると思う。

彼が来るまで時間を稼ぐんだ。


「………脅迫して、協力を得られると思っているのですか?」

「君の愛しい婚約者がどうなっても良いの?」

「ラファエル様は他人にどうこうできる人じゃないですわ!」


って言っても、抵抗できない私がいる。

男の言うとおり、ラファエルに何かあれば嫌だから逆らえない私は、どうしようもない。


「そう。でも君は?」


不意に言われた言葉に、私は一瞬固まった。


「え……」

「今ここで、君を汚すことは、彼にとってはどうでも良いこと? 君は穢れた身体で彼の元に戻れるかな? 精霊にも影にも助けてもらえない状況で、自分が無事でいられる保証があって、反抗しているの?」


サッと血の気がまた引いていく。

ナイフを当てられているから、自分が怪我をすることは最悪覚悟していた。

………でも、汚す…って……

そういう、意味よね…?

自分の貞操の危機ということに気付いた。


「………あ、貴方みたいな煌びやかな人が、地味もしくは平凡な私を相手にする、と?」

「気丈に振る舞おうとして失敗しているよ。そういう台詞は、身体の震えを止めてから言うんだね」

「っ……」


この男の言うとおり、私は震えていた。

ロードにされたみたいな――あの時のような恐怖が今一度あると思っただけでこれだ。

ラファエルに嫌われたくない。

ラファエルの前ではせめて清らかでいたい。

そう思うことは、悪いことなの?


「それに……平凡、ねぇ……」


男は改めて私を下から上へと視線を向ける。


「まぁ確かに魅力は半減だが」

「悪かったですわね!!」


男の視線が胸元で止まったのは見逃さなかったわよ!

こんな状況なのに思わず突っ込んでしまったわよ!

ないものはないわよ!!


「別に地味とか平凡とは思わないけど?」

「………え……」

「普通に可愛いんじゃない?」

「………………………………は?」


何を言われたのか分からなかった。

あ、いや、私の空耳よね、うん。


「肌の質は悪くないし、身体だってちゃんとメンテしてあるみたいだし。着飾ったら化けるんじゃないの?」


………その着飾りは失敗していますけどね!!

っていうか、何なのこの男!!

脅すのか褒めるのかどっちかにしてくれない!?


「と、とにかく! 貴方の目的は何ですか。わたくしがソフィア・サンチェスと知っておいでなら、当然ラファエル・ランドルフ様と婚約していることは知っておられますよね」

「ああ」

「婚約者がいる者にこんな事をしたら、どうなるか――」

「うん。それ、解消してもらうから」


あっさりと言われた言葉に、私の思考が一瞬止まる。


「一目見て気に入ったのは本当だよ。だから、要求するものを増やすよ」

「な――っ!?」


ど、どういう事!?

こ、これって…婚約者を横取りするって宣言、ってことよね!?

なんで!?

どうして!?

そ、そういうのはラファエル相手だけでしょ!?

ラファエルが奪い合いされるのは分かるけれども!

実際に何度もラファエルが誘惑されてますからね!

ナルサスに、アマリリスに、テイラー国王女に、カイヨウ国王女!

それにラファエルが引っかかったことなどありませんけれどね!

ラファエル信じてるから、嫉妬はしても不安は一切ありませんけれど!

それが今度は私に対して起こってます!?

マジで!?

こ、こんな時どうしたらいいの!?

あ、私はラファエル一筋ですからね!

そこだけは間違いないです!!


「わ、わたくしは…」

「ああ。婚約者だけしか視界に入っていないことは知ってるよ。でも、こっちはサンチェス国に次ぐ大国だし? ランドルフ国より豊かなこっちに嫁げばいい暮らし出来るし」

「そんなものっ!」

「いらない? 贅沢は好みじゃないか。じゃあ、ずっと愛の言葉を囁いてあげるよ。片時も離れないし、一日中ずっと抱いててやるよ」


ぞわっと全身に悪寒が走った。

冗談じゃない!


「わたくしは、ラファエル様以外の殿方からの愛など要りませんっ!!」

「………へぇ」


男がニヤリと笑い、グイッと後頭部を引き寄せられた。

咄嗟に身体が動いてくれて心底ホッとする。

男との間に手を入れられたことで、私は自分の唇を守れたのだった。

ググッと手に力を込めて男の顔を押しのけようと試みながら睨みつけると、男の瞳が至近距離で愉快そうに細められたのが、不快でたまらなかった。

緊張と怒りでドクドクと鳴る心臓の音が、耳元でしているような気がする。

早く来て…ラファエルっ!

私は心の中で呼びながら、相手を睨み続けていた。


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