第42話 どうやら私のせいだったようです
暫く息を整えていたラファエルは、ゆっくりと顔を上げて私を見上げてきた。
………どうでも良いんですが、どさくさに紛れて私の胸元で休むの、止めてくれませんか……
「もう怒ってないか?」
「………へ?」
私が、ラファエルに怒る?
………ぁぁ……
確かに一瞬怒ってたな……
後は寂しかったんだけど。
あの時、話をしないでラファエルを追い出したんだった。
「ソフィアが王女だからとか、関係ないとか思ってないからね!」
「は、はい…?」
「大体、甘味のアイデアはソフィアが出してくれたんじゃないか! こんなに当たるとは思ってもみなかったけど!」
「そ、それはラファエルの案でしょう? 甘味も、売り方も」
私には、テイラー国の人間に鞄を作らせるとか、考えつかなかったし。
貴族用と平民用で分けることも。
それに元々甘味だってラファエルが作ったんじゃないか。
私のアイデアは何処にもない。
「売り方はそう難しいことじゃなかったよ。強欲な人間を身近で見ていたからね」
それは王や兄たちのことだろう。
「テイラー国の人間が作る鞄の相場も調べ、甘味の種類もランク付けし、でも一定の金額で販売だからそれこそハズレもある。ハズレを多めに作っているから苦情来るかと思えば、次の日から使用人増やして手に入れようとする貴族で溢れた」
「………」
「一人一つ、だからね。それが希少価値を上げるんだろうな」
「成る程……」
つくづく貴族は湯水のようにお金使うよね……
「鞄と甘味代。結構高額にしても問題なく買っていくよ」
「………」
悪い顔をしてらっしゃいます…
これはあれだな……
ぼったくってると気づかれないような金額付けしてるわね…
「………あ、そうだ。材料となる食材は定期的に手に入れられるの?」
これを聞くの忘れてた。
「それは大丈夫。ここは食材の宝庫の国だよ。それに俺が作っている甘味は平民でも手に入れられるのが殆ど。更に一人一つ二つと制限することで一日に仕入れる量を調整。影響ないよ」
ホッとすると同時に、平民が食す材料だとは貴族には知られないようにしないと、と思った……
「………で、もう怒ってない?」
………あ……
最初に返事してなかった。
不安そうな顔で見上げてくるラファエル。
………可愛いから!!
止めてくれる!?
「お、怒ってないよ最初から」
「じゃあ何で俺を追い出したの」
「………そ、それは……」
視線を反らすとラファエルがその方向へ顔を出してくる。
逆方向に向けるとそっちに移動してくる。
どうあっても自分を視界に入れさせる気だ…
「ソフィア、俺はお前だけがパートナーだ」
「………え……」
「だから、聞きたいことがあるなら直接聞け」
「でも私が外出するぐらいなら答えた方が良いと言ったじゃない。外出しないように仕方なく教えようとしたんでしょ!? 王女の私が関わることじゃないって! 大人しく部屋に居ろって事でしょ!? 国のことに関わるなって! お金のことに関わるなって! 借金の事にも首突っ込むなってことでしょ!?」
「ち、違う! あの時はまだ隠しておきたかったんだ!」
「………“まだ”?」
首を傾げると、ラファエルが不意に立ち上がった。
「軌道に乗って、今あるサンチェス国への借金を半分ぐらい返済してから! 成功したと言って俺とソフィアのアイデアが上手くいったぞ、と! 俺頑張ったと! そしたらソフィアが惚れ直してくれるかもしれないだろ!! ソフィアから抱きついてきてくれるかもしれないだろ!! 好きだと言ってくれるかもしれないだろ!」
………
………………
………………………
そんな、意気込んで言う事じゃない……
そして私は抱きつけないよ。
は、恥ずかしいし……
そ、それに、好き……も言える気がしない……
じゃなくて!!
「不純な動機を声高々に言わないで欲しいんだけど!!」
これか!!
ライトが言いよどんだ理由は!!
そしてラファエル!!
離れてた間に性格変わったような気がするけど、気のせい!?
「ソフィアは俺が好きじゃない?」
「んな……!?」
カァッと赤くなるのが分かる。
「俺傷ついたな~……いきなり追い出されて」
「う……」
「遠くに捨てられたけど、急いで戻ったらソフィアいないし」
「……ぁ~…」
「王宮探してもいないし。街中走ったけどどこにもいない」
街中走ってきたのか。
それであの息切れ……
何だか申し訳ない……
「ご、ごめんなさい……」
「疲れたなぁ……」
「ごめん……」
「そんな俺にソフィアは何もない……」
「うぅ……」
そういうのって、催促だと思うんですけど……
けど言わなきゃ終わらない気がする……
でも……
傷ついたのは私の一緒だと……
言っても無駄な気もするけど…
「わ、私も傷ついたんだからね! ラファエルは何も手伝わせてくれないし!」
「だって、ソフィアに包丁持たせられないし」
「………ぇ」
「怪我されたら困るし。詰める作業だってソフィアにさせられないし。それは平民の仕事でしょ。交渉だって下の者がするし」
「………そ、そうだけど……」
改めて言わないでよ!!
何も出来ることがないって再確認させないで!!
「そんなソフィアも可愛いよね」
………なんでも可愛いで済ませようとしないで下さい……
「やっぱり待てないや」
「え!?」
ギュッとラファエルが私を抱きしめてくる。
「久しぶりのソフィア。堪能させてね」
そのまま私はラファエルに抱きしめられたままで一日を過ごした。
何をやっても離れてくれず……
でも、ラファエルとは仲直りできたようです。
これで、よかった、のかな……?
なんだか曖昧なまま仲直りしてしまったような……
………まぁ、いいか。




