第417話 思っていたよりも ―S side―
ヒューバートの心が折れたとき、丁度良いと思ったのかこちらに来る者がいた。
「マーガレット、もう大丈夫か?」
「はい。大丈夫ですわ」
「そうか。お久しぶりですヒューバート義兄上。そして初めましてソフィー様。スティーヴン・クラークと申します」
「久しぶり…」
「お初にお目にかかります。ソフィーと申します」
ヒューバートはまだダメージから回復せず、死んだような目になっている…
………大丈夫かしら…
「私にとってもソフィー様は義理の姉になりますので、気軽にスティーヴンとお呼び下さい」
先程の妹君同様、こちらも聞かないのだろう。
「………分かりました」
了承することで、会話を短くすることしか出来なかった。
「ヒューバート義兄上、せっかくですから1つお手合わせ願いたいのですが」
「え……」
スティーヴンの言葉にヒューバートは戸惑った。
こちらには任務に来ているのだ。
私事にこれ以上時間を割くのは……
「すまないが、ソフィア様のご命令でここに来ている。これ以上ご命令の事以外に時間は割けないんだ」
断ってくれてホッとする。
急いで済ませて早く姫様のところに戻らなければ。
何をなさっておいでか心配だ。
またラファエル様につられて何かをやらかしているかもしれない。
内緒で王宮内を徘徊しているかもしれない。
何をやらかすか分からない人だから。
「あ…そうですよね。仕事中ですよね」
………あれ……
そういえばガルシア公爵に会って欲しいと言われていたっけ…
それも一応私事になるから、やっぱり断って、後日改めて…
「あら。先程お父様にソフィー様を会わせるとかおっしゃっておりましたのに?」
「ぐっ…!」
………聞かれてましたのね…
「そ、それは、立ち去る時に報告するから、そのついでに……」
「まぁ! 大事な婚約者を紹介するのに、ついでって! そんな片手間にご挨拶するのはソフィー様が可哀想ですわ!!」
「うっ……」
思わず頷いてしまいそうだった。
や、やっぱりそれは無いわよね……
後日改めてこちらに来ればいいだけのこと。
それにわたくしも心の準備とか、必要ですし……
「もう! お兄様も1度はガルシア公爵になるように教育を受けていらしたのよ!? しっかりなさいませ!!」
「………すまん……」
妹君に怒られるヒューバートは、情けないのだけれど、そんなところも微笑ましいと思ってしまう。
これでは姫様のこと言えませんわね…
好きな方の色々な顔を見られ、嬉しい限り。
お支えしたい気持ちが高まる。
「そんな事で、ソフィー様は勿論のこと、ソフィア様をお支えできるのですか!?」
「「………」」
思わずヒューバートを見上げると、ヒューバートもこちらを見下ろしてきて――
同時に視線を反らした。
………妹君は姫様の本当の姿を見ていないから……
何とも言えず、2人して妹君に困った顔を向けるしかなかった。
「………なんですの?」
「い、いや。大丈夫。上手くやってるよ」
そう言いながらもヒューバートは苦笑い。
普段のヒューバートは今の妹君の立場――姫様にお説教…ご忠告申し上げる立場ですからね…
「その件に関しましては大丈夫ですよ。わたくしも同じ職場ですから、ヒューバート殿の仕事ぶりは知っております」
「………そうですか? それならよろしいのですけれど……」
いまいち信用してもらえてないようだけれど、妹君はそれ以上何も言わなかった。
「じゃあヒューバート義兄上、今度来るときは俺とマーガレットにも連絡くれます?」
「あ、ああ。分かった」
ヒューバートが頷いた時に、他の騎士達がわたくしとヒューバートを呼ぶ声がした。
そろそろ合流しないといけないようだ。
最後に別れの挨拶をして、2人と別れた。
意外とわたくしが受け入れられていたようで、ホッとする。
彼女は姫様を本当に好いてくださっていることも伝わってきた。
そして、兄思いの方だとも。
「………兄の立場も形無しですわね」
思わずクスッと笑ってしまえば、ヒューバートが顔を赤くする。
「………忘れて下さい」
「無理ですね」
「ソフィー殿!」
焦るヒューバートにも笑ってしまい、ますますヒューバートが顔を赤くした。
けれど諦めたのか、赤い顔のまま苦笑し、笑顔を向けられる。
そんな私達を別れた2人が見ていて、2人が微笑み合いホッとしていることなど、知るよしもなかった。




