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第416話 …なんか可笑しいです ―S side―




「………顔を上げて下さい」


公爵令嬢の言葉を聞き、わたくしは身を起こす。

けれど、直接は見られない。

元々わたくしは侍女で、貴族の顔を直接見るのはマナー違反にもなる。

先程視線を合わせてしまったけれど…


「ソフィー様に非はありません。兄が婚約していることを知りながら、わたくしも触れてしまいそうになりましたから。咎められる言葉を婚約者であるソフィー様から発せられるのは、当然です。こちらこそ、失礼致しました」


非公式な場だからかもしれないけれど、妹君が頭を下げる。

わたくしは焦ってしまう。

立場の低いものに軽々しく頭を下げるだなんて。

それに――


「お、お止め下さいませ! わたくしのような者に頭を下げないで下さい!! それにわたくしに敬称など付けないで下さいませ!!」

「いいえ。兄の婚約者以前に、貴女様はソフィア様の妹君でございます」

「………ぁ……」


そうだ。

わたくしは姫様の妹として、ガルシア公爵に連絡が行っていた。

その事を、妹君も知っていたのだ。


「一目、お目にかかれたらと思い、ソフィア様にわたくしが我が儘を言ったのです。こちらまでご足労頂くことになり、申し訳ございません」

「い、いえ……」


この場合、どうすれば良いのだろう。

わたくしは任務でここに来ている。

けれど養子といえど、姫様の妹の立場には変わらず…

わたくしが戸惑っていると、妹君がそっと身を起こした。


「どうぞ、わたくしのことはマーガレットと、お呼び下さい」

「ですが……」

「義姉妹になるのです。他人行儀は止めて下さい」

「………」


戸惑っているとヒューバートがわたくしと妹君の間に立った。

少しホッとした。


「マーガレット、無茶を言うな。俺はもうガルシア公爵家とは――」

「確かにもう跡取りではありませんが、お兄様はガルシア公爵家の一員です。その名にガルシアがついておられるのですから」

「………」

「お父様が本気で勘当するつもりなら、ガルシアの名は捨てさせています」

「………それは、そうだが……」

「それにお父様はもうお兄様に情報を探らせてはいないでしょ」

「おい!」


ヒューバートが焦って妹君の口を塞ぐ。

そして周りを窺う。

わたくし達の周りには人の気配はないから大丈夫だと思うけれど、それを言う暇はなかった。


「大丈夫です。スティーヴンに人払いを頼みましたから」

「………お前な……」

「お兄様こそ、その余裕のなさは何ですか。せっかくソフィー様という素敵な婚約者が出来たというのに、そんなオドオドしててみっともない」

「………っ!」

「ついにお兄様が極度のヘタレを克服し、格好良くプロポーズを決め、日々仲を深めていると思っていましたのに」

「………………………は!?」


妹君の言葉に、ヒューバートが目を見開いて狼狽える。

………そういう所では……

言いたい放題言われているヒューバートに、思わず苦笑する。


「そのご様子では、自分からは何も出来ず、周りに後押しされ、なし崩しに婚約させていただいたのですね」

「ぐっ!!」


………ヒューバート……何故そこで言葉を詰まらせるのかしら…

知らぬ存ぜぬを通せば、嘘も本当になるのに…

………まぁ、そんなところもヒューバートらしくて、可愛――こほんっ。

それにしても、まるで見てきたように仰るのね……


「恋愛のれの字も知らないお兄様が婚約したと先日お父様にお聞きして、心配していたのですわ! そのご様子ではデートにも誘えてないのでは!?」

「そ、それはっ!」


ギクッと反応するヒューバート。

………それでは図星だと思われても仕方がないですよ…

どうして、ヒューバートは騎士の態度をとっていなければ、こうして分かりやすい男になるのだろう……

………って、わたくしも人のことは言えませんね…


「情けないですわ! わたくしの兄が婚約者をまともにお誘いできないなど、恥ずかしいです!!」

「ちょ、ちょっと待て! お、俺はこれでも誠実を貫いてきたんだぞ!? なのに何故、その、ヘタレ……だとか! お前はまるで見てきたようにっ!」

「当然でしょう!? お兄様は前の婚約者に1度も会いに行かない、贈り物もしない! その前に顔合わせすらしない! 剣を振るうのが、剣術が恋人だったでしょう!? そんな男がいきなりスマートに女性に声をかけられるわけないでしょう!?」

「うぐっ……!!」


………あ、ヒューバートが心臓にダメージを受けたのが分かった。

………妹君……ちょっと姫様に似てるのだけれど…


「い……ぁ……マーガレットさ――マーガレット、そ、その辺にしてあげてくださいませ…」


これ以上はヒューバートが可哀想だ。


「ですが……ソフィー様にご迷惑を……」

「い、いえ。わたくしもヒューバート殿と同じく、恋愛になれておりませんので……お互い様なのです」

「………そう、ですか…」

「………姫様――姉がわたくしたちをこちらへとおっしゃったのは、マーガレットにお会いするためでしたのね」

「あ、そうなんです! ソフィア様を悪く思わないでくださいませね! わたくしが無理に兄とソフィー様にお会いしたいと申し上げたのです! 不躾な願い、お許しくださいませ」

「いいえ。お兄様の婚約者がどんななのか、気になるのは当たり前です。改めて、ソフィーと申します。宜しくお願い致します」

「マーガレット・ガルシアです。こちらこそ、兄共々宜しくお願い致します」


わたくしが頭を下げれば、マーガレットも頭を下げた。

ヒューバートは居心地が悪いのか、そわそわしていた。


「………ところでお兄様」

「………なんだ…」


今度は何を言われるのか。

身構えたヒューバートにわたくしは苦笑するしかない。

お兄様のハズなのだけれど…


「騎士ともあろうものが、婚約者に庇われるなど、情けないですね」


………今度こそ、ヒューバートの心が砕け散ったのが分かった。

………わたくしのせいで、ごめんなさい……


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